道場物語、今回はちょっと趣向を変えて、私の経験談を話してみることにする。
私がアラバマで指導始めた昔は、道場生は殆どが若い人(青年、中年)たちであった。
それも殆どが男であった。子供は非常に稀であった。
若い女性の方が子供達より多かった。
僅かだが家族全員で稽古をしている人達もいた。
家族の中には当然子供とが混じる。
子供も5~6歳の子から10歳から12歳ぐらいいろいろだった。
あの頃は指導の際、子供だからといって特別扱いはしなかったように記憶している。週末の土曜日のクラスは昼前の稽古だけであった。
午前中と言うことで、若い人も出席することはあるが少なく、比較的に家族連れ、主婦、中年のオジサン、子供たちが多かった。
子供の数が知らぬうちに増えてきた。
ある日、アドバイザーが子供だけのクラスをつくったら良いのではないかと進言してきた。いろいろ考えた末に週二回午後に子供だけのクラスを新設した。
オス、小島康隆です。今回は、マジで心境の変化で稽古をし出したかの話です。
僕の事は、第一話、第三話でお馴染になったので皆覚えてくれているのではないかと思います。屈辱の敗北から僕は立ちあがりました。
ちょっと気取って言うと、なにもしないうちに一発で倒されて仕舞った経験が、なんか僕の眠っていた闘争本能を呼び覚ましたように感じました。
テル先生が「皆そんなに変わりはないんだ、いつ目覚めるか、いつ気合を入れるかの差だけなんだよ。」
その話を聞いてから、「ヨシ!やってみよう・・・」と決意した。
道場で稽古中に、テル先生が「チャンピオンになりたかったら、先ず自分をよく見ろ。気合が、弱くなったり無くなったりしたら技が自分の身体から逃げてしまう、気合を入れて、汗を流して一つ一つの技を正確に自分の身体の中に溶け込ませるんだぁ!自分との闘いだ!自分から逃げるな~」
先生がいつものように頭のてっぺんから高い声を出して励ましてくれている。
僕は先生の言葉が、突いて蹴っているとドンドン身体の中に入ってくるのが感じられた。
「正拳があるから蹴りも、受けも生きるんだ。先ず正拳を身に付けろ」
先生の激励に皆が「オ~ス」と返事をしたが、ホントに分かって返事をしたのは僅かな人の様な気がした。
なんとなく皆稽古に慣れ過ぎている様な感じがみえる。
僕はビシビシ音をたてて突いた。気持が良かった。
なんとなく恐いものが無くなったように感じる。不思議な感じがした。
それでも組手の時間になると身体がなんとなく震える。
最初は何で震えるのだろうと思ったが、心の底にやはり、突かれたり、蹴られたら痛いだろうなー、と先に思ってしまう。
だから怖さが出て、身体が自然に震えだしてしまうようだ。
今日も同じように、座ってモジモジしていた。
ところが、テル先生が「ヤスタカ立て」と僕の名前をさしてきた。
しょうがなく立ちあがる、相手は何時もガンガン叫びながら突いて蹴ってくるタケシだった。一番嫌な相手であった。
「ホレー、構えろ」とテル先生が言うのでなんとなく構える。
タケシが僕の顔を見ながらニヤニヤしていた。
テル先生の無常な「ハジメ」の声を聞く。タケシが前に出てくる。
タケシのニキビがつぶれたゴツイ顔に圧倒されて、なんか僕の身体が金縛りにあった様に動けなくなって仕舞った。
タケシの左の正拳がとんでくる。
両腕で胸の前をカバーする。腕にガシーと衝撃を受ける。
僕の身体が後ろに流れる。タケシの一番得意としている下段回し蹴りがくる。両足をすくわれる様にして僕は道場のマットに叩きつけられた。
痛さは感じなかったが、見上げるとタケシがニヤニヤしていた。
なんか解らない、頭の中が真白になったように感じた。
まさかこの年でカラテの稽古、武道の世界に入るとは思ってもいなかった。
息子の太郎を空手の道場に通わせているうちに、なんとなく興味が出てきてしまったのである。
稽古を見ていると私と大体同じ年頃の女性が突いたり蹴ったりしている。
あの位だったら私も充分出来る。そう思うとなぜか私の血も騒ぎ出して仕舞った。
うちの亭主になんて言おうか迷ったが思い切ってある晩胸の内を明かした。
亭主の顔がビックリして「お前どうしたんだぁ、まさか今流行りの殴る蹴るのケージファイトでもする気じゃないだろうな?」
私も思わず「オホホ~ホ」と笑い出してしまった。
「お前、なにか俺に不満でもあるのか?」
「勿論不満は沢山あるは・・・ウフフ冗談よ{本当はあるのだが}・・・」
「エッ、なんだぁ、お前!?・・オレ疲れてんだよ~驚かすなよ・・・」
・・・うちの亭主は仕事が大変なのか年々身体が細くなって行くように見える。
栄養のあるものを考えて食事をさせているのだが、あまり効果がない。
そんな、うちの亭主とは逆に、私はなぜか身体が横に前に出てなんとなく鏡を見るのやヘルスメーターに乗るのが嫌になってきた。
中年と言うか、子供達にオバサンと言われる歳になって、このまま何もしないと身体がドンドン丸くなって仕舞うのではないかと最近マジに考えるようになった。
・・・そんな訳でうちの亭主に相談してみようと思ったのである。
余り亭主を驚かすのも可哀そうなので「・・・ちょっと太り気味だし、エクスサイズしないと身体がなまる様な気がして」
「お前ジムに通っているんじゃないのか?」
「ジムにいくとなんか同じことばかりやっているし、みんな集まるとすぐ井戸端会議になって人の悪口や変な噂話して終わってしまうの」
亭主が「そうか~、いいんじゃないの、太郎はどれぐらい通っているんだ」
「今週で5カ月ちょっと、いま黄色帯6級」
「じゃー試合したら負けちゃうな、太郎に負けない様に頑張れよ」
・・・と言う訳で晴れて亭主の承諾を得て入門した。
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僕の名前は石川一馬、中学2年生である。
数学や理科は得意な科目だが体育が苦手である。
僕の隣の席は生憎、自称万能選手の小島のバカが座っている。
昼休み前に数学のテストがあった。
隣の小島が肘で「見せろ見せろ」とカンニングの催促をしてくる。
見せないと後で何されるか分からないのでそっと答案用紙を斜めにして見せる。
小島は普通の科目の時は静かにしているが、体育の時間になると俄然元気になる。
元気なるだけなら良いのだが、威張りだす。すぐ腕力を見せつける。
今日の5時間目体躯の時間バスケットの試合をやらされた。
小島が格好つけて一人で張り切っている。小島のテ―ムと僕らのテ―ムが対戦した。
僕のテ―ムには畠山久美子さんがいた。
畠山さんは細面の顔に大きな黒眼がキラキラしている綺麗な女の子である。
クラス中の男子生徒の憧れの人だぁ。勿論僕も秘かに憧れている。
彼女は綺麗だけでなく勉強が良くできた。クラスの成績順位を僕と争っている。
その畠山さんが同じテ―ムになったので嬉しかった。
畠山さんを意識すると、なんか元気が出てきた。
試合が始まった。小島がドリブルをして僕の前に来た。
僕がガードをする。小島が睨む。首を左右に振りながらフェントをかけてきた。
知らないうちに僕の右手が小島の鼻の頭にぶつかった。
故意でやったのではなく、アクシデントであった。
小島がボールを落として、「イテイテ・・」と言って鼻を押さえる。
鼻血が出てきた。
小島が「この野郎―」と叫んで僕に殴りかかってきた。
アッと思って両腕で顔面をカバーする。小島の右のパンチが僕の左腕にガシとくる。
襲撃で僕は尻もちを着いてしまった。
その時、僕のテ―ムになっていた畠山さんが、「小島君やめなさいよ、アクシデントじゃない、そんなに怒る事ないでしょ」と言って割り込んで来た。
小島が「なんだぁテメ―」と言って、左手で畠山さんの肩を、押そうとした。
畠山さんが小島のその左手を右手で払いながら小島の左側にスーと身体を変えた、
その瞬間畠山さんの左足がビューと音を立てながら小島の顔面に飛んで、
膝から先が鞭のような鋭いスナップが一瞬見えた。
「ガシ」となんか鈍い音がした。
「アッ」と皆が思ったとき、小島が両膝を折るようガックとコートに崩れた。
畠山さんが素早く小島の頭をコートにぶつかる前に受け止めた。
僕はドキとした。みんな唖然として畠山さんを見ていた。
映画のシーンを見ているような錯覚がした。
格好いいなんてもんじゃなく、天使、女神みたいに輝いていた。
凄く綺麗だった。
僕はその時から畠山に恋をしてしまった。
僕の名前は第一話チャレンジカップで話した小島康隆である。
入門2ヶ月半であの大会に出場して、相手と構え合った瞬間に上段回し蹴りをくらって、倒れた子だぁ。
あの後、しばらく耳鳴りがし頭痛も続いた。
「ジーイン・・」となにかが耳の中や頭の中に響き出す度に「この野郎」と思った。
心の中に何か押さえきれない怒りのような塊が出来たようだった。
怒りの塊は、僕を蹴った相手ではなくよく解らないが自分に向けられている様に感じた。
なんか、自分が意気地がない様な気になって、そのことがなんとなく自分に納得がいかなかった。
そんな気が、かたまってしまったようだった。
鏡でそんな自分を見るのが嫌だった。
大会の後、道場に行くとみんなに笑われるのではないかと気が重かった。
だから、いろいろ理屈を付けて稽古から遠ざかった。
何故かお母さんも道場に行けとは、あれから言わなくなった。
お母さんがなにも言わなくなったので、僕の方で変な気分になった。
みんなが気を使っている様な気がしたからである。
俺の名前は寺田信吾、現在中学2年生である。
勉強、スポーツ万能、イケメンである。
顔はたまご型、眼は細いが「優しい感じがする・・」って女の子が騒ぐ。
髪の毛はもちろん長髪、ナチュラルなウエーブかかっている。
ときどき女の子が触ってきて、うるさくて困る。
ワールド大山空手、練馬道場に入門して約一年弱ぐらいになる。
きっかけは同じクラスの、鈍い松木勇太郎に誘われたからである。
勇太郎には悪いが、彼は何やっても遅いと言うか、鈍いと言うか・・とにかくダサイ、クールじゃない、ようするに格好がよくない奴なんだ。
そんな勇太郎が昼休に前屈立ちとか正拳だとか格好つけて見せるんだぁ。
それじゃー俺もちょっとやって見返してやろう~かと思って始めた訳。
道場と言葉に出して言うと、何か古い感じがする。
でも日本の歴史と言うか世界に誇れる文化の響きが快く感じられる。
道場にはいろいろな人、老若男女が汗を流している。
そして、それぞれ入門する動機は異なるようである。異なる動機の背景には、その人の苦しみ、喜び、それぞれの葛藤があるようである。
汗を流し自分を見つめチャレンジして心の葛藤を乗り越えていく。
道場には今日から明日へと大きく羽ばたく人の汗が流れている。
人それぞれの汗にはその人だけの、物語がある。
第一話 チャレンジカップ
僕の名前は小島康隆。現在某高校の2年生、昼休み教室から青空を見ていたら、なんとなくカラテの道場に入門した最初の日、それから最初に大会に出た事を思い出した。
第一話 チャレンジカップ
ヤスタカが、大会に初出場。
テル先生の気合い。
同級生タケシの奮闘。
乞う御期待!