皆さん元気ですか?アラバマは真夏に入りました。
容赦なく激しい陽が毎日ガンガン照り付けてきます。
こちらも、夏の陽に負けないように命の火を燃やしています。
気合を入れてガンガン燃やしています。
サテ、私の自叙伝、第6話ワンダフル空手です。
大山泰彦最高師範 vs 大山茂総主
眼の前に立つ春山は、雲をつくような大きな身体をしていました。
圧倒されました。
春山はその強面のニキビ面で、ニヤニヤと人をバカにしたように私を見下ろしていました。
なぜか周りの黒帯の人たちの視線も、皆私に注がれているように感じました。
皆の視線が余計に私の身体を硬くしてきます。
正直に言ってどういう風に組手をやれば良いのかわかりませんでした。
そんな私の態度を読んだのか、安田先輩が
「いつもやってる喧嘩のようにやればいいんだよ・・・」
と言って来ました。
その言葉を聞いたとき、私は兄貴に何故道場に連れてこられたか直感的に解りました。
謀られたのです。
兄貴を見るとニヤニヤと笑っていました。
そうか、ソウだったのか。
私の非行を直すには、お説教だけでは無理と思って道場に連れてきたのです。
「・・・オマエの運動神経は抜群だよ、右のパンチ一発凄いなー、黒帯そんなの直ぐだよ、・・・それにコズカイもやるよ・・・・」
兄貴の甘い言葉は全て私を道場に連れてくるための誘いだったわけです。
「ヨーシ、ジョウトウダ」
とチラッと気合が入ったのですが、でも安田先輩の非情な
「ハイ、始め」
の声と共に掻き消えてしまいました。
「ヤバイ」
胸が苦しくなり、自分の身体なのに力が入りません。
腕も脚も言う事をきいてくれませんでした。
春山は微笑を湛えながら間合いを詰めてきます。
奴の身体が近づくにつれ段々と大きくなるのです。
たぶん身長は180センチぐらいはラクにあったと思います。
ウエイトも80キロ超えていたようです。
とにかく背の高い安田先輩と同じぐらいか、もしくは春山の方がいくらか高かったと思います。
最初は人間と思っていたのですが、近づいてくるとゴジラのような怪物でした。
私は可愛いアリン子です。
何かしなくては、ナントカ逃げなくては・・・と焦っても身体が動かないのです。
ゴジラが「ホレ、ホレ・・・」と不気味に人の気持ちを読んでいたぶりだしました。
赤い細い目がはっと見ひらいた時、頭の上を丸太棒のような脚が「シュー」と音を立ててかすって行きました。
そんな技が2〜3回顔面や頭の上を紙一重の差で通り過ぎました。
「いつでも突けるし蹴れるんだよ・・」
私の身体は金縛りにかかってしまいました。
春山は私の気持ちの動きを楽しんでいるようでした。
「ホレ、こい」というゴジラの声に合わせて蹴っていきました。
蹴りを出した瞬間、大きな衝撃が腹の部分に感じて後は息をしようともがき苦しみました。
水月にまともに突きや蹴りをもらった人はきっと経験があると思いますが、息をしよう、息をしようと焦るのですが胸と喉が詰まって息が出来ないのです。
誰かが背中をドーンと叩きました。
フット、息が通りました。
頭がくらくらしたのですが、春山が
「ホレ、立つんだよ」
と言いながら、たぶん私の襟首を掴んで立たせたと思います。
「ドウシタ、ドウシタ・・まだまだ頑張れ、ホレホレ」
私がどんな顔をしていたか分かりませんが、その顔に春山の掌底(ビンタ)が炸裂しました。
何か顔に焼きごてのような熱い感じがし、眼から明るい光が無数に飛び散り花火を見たように思いました。
私は道場の床板を嘗めていました。
それから、後は立たされ、また叩き付けられ、また立たされ、また叩き付けられました。人間サンドバックです。
何度も息が止まり、その度に本能は息をしようとするのですが息が出来ないのです。
安田先輩が何度も活を入れてくれました。
頭の中が真っ白になってしまいましたが、心の底で「コンチキショーコンチキショー」と叫んでいたようです。
春山にはまったく手も足も出ませんでした。
天井や壁、床板がグルグルと回りっぱなしでした。
「ハイ、ヤメーイ」
の声が微かに遠くの方から聞こえてきました。
アリとゴジラの対戦は終わりました。
春山のゴッイ顔が霞んで見えました。
奴は笑っていたようです。
意識がモウロウとして、脚、腰にまったく力が入りませんでした。
なんとか自分の末席に座ろうとすると、安田先輩が
「まだまだ、隣に動く」
エッ、とみると兄貴が立っていました。
何か嬉しそうに微笑を湛えていました。
「ハーイ、構えて、始めー」
の声に、兄貴が微笑のままいきなりビンタをくれました。
派手な「バシー」という音と共に私の身体がぶっ飛びました。
手を貸して私を立たせて、今度は脚払いをくれました。
頭から投げられました。
春山の時は全くどうしようも無い気持ちでしたが、実の兄貴のこの仕打ちは、許せない。
「コノヤロウ、コノヤロウ」と思いましたが、全く刃が立ちませんでした。
顔面にビンタをもらい腹に正拳をもらい、何度も何度も息が止まりました。
不思議に思うのは春山の時よりも意識があったようです。
きっと肉親の兄だったからかもしれません。
その兄貴がこんな仕打ちをするのが許せないという気持ちが前に出てきたからかもしれません。
ここで人生が終わってしまうのでは、と思うような組手の時間が終わり、私の最初の道場稽古が終わりました。
それでも立てて歩けたのだから春山も兄貴も最後の「決め」のところはいくらかコントロールしていたようです。
基本稽古が約2時間、移動・型の稽古が1時間、そして組手が1時間、全部で4時間の稽古でした。
帰り道、歩く度に頭はガンガンと鳴り響き、口の中が切れて唾を飲み込むたびに痛みが身体中に走りました。
兄貴が道中「オイ、ダイジョーブカ・・」と何度も聞いてきましたが、本当に心配しているのか、からかっているのか分かりませんでした。
私の腫れた顔を見ては何が可笑しいのか、一人でゲラゲラ笑っていました。
私はまったく無視です。
喋ると口の中に痛みが走り口を開けなかったのです。
しかし口惜しくて口惜しくて泣きそうでした。
春山にも兄貴にもまったく敵いませんでした。
絶望的な気持ちで一杯でした。
でもそんな気持ちの奥の、奥の方で、
「チキショー、今に見てろ、このお返しは必ずするからな、許せない・・・」
かすかな火が燃えていました。
そのわずかな火の中で、私は空手の稽古をしようと決心しました。
自分の個性を伸ばす、可能性を大きく開く、人格を磨き上げるとか、そんな綺麗事では有りませんでした。
ただ、春山と兄貴を道場の床板に叩きつける、打ちのめす、私が味わった苦しみを味合わせてやる。そんな復讐心からの決意でした。
その決意は、深く確かに心の底に鋭いノミで刻まれました。
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ちょっと、ちょっと…これ、超面白いじゃないですか。
書籍化の予定とか無いのでしょうか。
とっても面白いです。
from K.Murata(2023/09/04)