アラバマの夏は気合を入れないと暑さに負けてしまう。
この書き出し、今までなんかいも使ってきたが、今回もやはりこう書き出すよりほかにない様である。それほど暑いのである。
ワールド大山空手の総本部は自慢ではないがエアーコンディションが無い。
この事も何回も書いている。2階のロッカールームにはついている。
冷房設備が無いことは以前にも何回も書いているのでみんな知っている事と思う。
最初に行ったように自慢している訳では決してない。
真夏のエッセイは同じような書き出しなる。
どこかの奇特な富豪が「師範お金が余ってしょうがないのでエアーコンディション買わせて下さい・・・」など言ってくることを期待している訳でもない。ホント。
7月に入って俄然気温が上がった。毎日猛暑が続く。
夏に咲く百日紅の花も激しい陽の光に首をうな垂れている。
しかし私は頑張っている。気合を入れてディープサウスの灼熱の太陽をはね返している。そこでサマーキャンプ稽古日誌である。
7月14日火曜日
今日の稽古は基本その三の型、四方の型から、その型の中の技を使っての組手であった。三人で組んでやる稽古は、息をつかせない激しい動きになる。
当然汗が溢れるように出る。道場が汗でプールになるのではと心配になるほどである。
最初にアラバマの夏を経験した時、道場の裏にプールがあって、プールには水ではなくビールだったらな~、飛び込んで腹いっぱい飲めるんだがなぁ~…などと馬鹿みたいな想像をした事がある。酔っぱらってエッセイを書いてる訳ではない。念のため。
稽古が終わった時、ちょうど日本からマサ先生、SFから斉藤先生が無事に到着した。
直に4~5人の黒帯連中と近くのピザ屋に行く。ビールの時間である。
一日で最もエキサイテング?!な瞬間である。いつ見ても黄金色のビールは飽きない。
馴染のウエイターが大きなバケツぐらいのビッチャー{picher}になみなみと注いだビールをソロソロともってくる。
全員で息を殺しながら、こぼすなよ~、こぼすな~と祈っている。
無事テーブルに冷えたビールが置かれる。自然と顔がほころびる。
真っ白に霜のかかったグラスに慎重に次ぐ。ごくりと思わず生唾が出る。
オスの掛け声も気合が入る。「ウクン、ウクン」と咽の音を立てながら飲む。
最初の味はなぜか甘い感じがする。ビールが身体の中に散ってしまう。
すぐにビールの味を確かめるように、またコップを手にする。
「ウグン、ウグン」とまた喉の音をたてながら飲む。
こんどはビールがすぅーっと胃の淵まで届く、そこでバワーンと広がる。
チョットにがみのホップの味がする。あぁ~俺は生きている。値千金である。
激しい稽古、汗をバッチリ流した後だからビールが最高なのである。
マサも斉藤も今日は稽古はなかった筈だが目を細めて嬉しそうに飲んでいる。
不思議なカラテ家にみえる。大きな皿にピザが出てくる。
旅の疲れがあるから食欲がないと思ったが、パクパク食べていた。
二人とも私の家に泊まる。勝手知ったる私の家、すぐに二人ともカンフタブルな格好に着替え晩飯の支度をする。
家人がベットルームに逃げるように閉じこもる。
「貴方、家の中では猛獣は飼ないはずでしょ~」これは私の想像のし過ぎかも知れない。
外でビールを飲んでピザを食べたからもういいと思ったら得意の野菜炒め作りだした。勝手に冷蔵庫を開けてビールを出し飲み始める。
二人でタッグチームを組んでるようで、動きに迫力がある。
黙って見守るしか仕方がない。プロレスラーと言われる意味が良く分かった。
7月15日水曜日
今朝から型の撮影に入る。
私の身体が動くうちに、正確な型を撮っておかなければいけないと思った。
外の音が入らない様に表も裏もドアを閉めたまま撮影に入る。
エア―コンディションはない。汗が吹き出る。
特にマサと斉藤、きのうビールをガバガバ飲んだので汗も半端じゃない。
基本その五~八まで。正面と側面から撮影する。
マサと斉藤、それにカールなんか映画の時と同じ顔触れである。
3人とも基本の型は完全にマスターしている。
ところがカメラの前に立ち演じるとこれがまた違った感じになる。
簡単な間違いを繰り返す。カメラを意識して力んで仕舞うようである。
格好つけなくてもいいと思うんだが顔の表情から、足の先、頭のてっぺんまで気が飛んで、硬くなって仕舞うようだ。かく言う私も同じような間違いを何回もしている。
が、私は監督である。ただ怒鳴るだけでいいのである。
怒鳴っても三人とも無視である。勝負しても敵わない、しかしなんとか痛めつけたい。・・・撮影続行である。
“八倒“は投げの型である。
突き技、受け技、誘いの構えなどを使って相手を投げる型である。
そこで閃いた。八倒の型を三人で絡ませ、お互いに投げ合うところを撮ろう。
俺が監督なんだからガンガン使ってフーフー言わせようと思った。
始って案の定3人とも面喰ってドタバタになった。
それでも流石元チャンピオンだけあって、時間がたつと格好がついてきた。
午後から武具の基本、型の撮影に入る。スタイルを変えさせて、袴を付けさせる。
袴の裾を踏んでころべば面白いと思ったが、三人とも残念ながらころばなかった。
昼食の後、休んで午後からまたサイやヌンチャクの撮影に入る。
三人とも基本的な間違いを見せた。普段の稽古の浅さが見える。
やはり毎日子供やオジサンやオバサン相手に指導におわれていると、自分の稽古が足らなくなるようだぁ。それでもなんとか絵になるような動きが撮影できた。
晩飯の後の雑談。
マサと斉藤の顔を見ながら、私が鼻毛を切るのがなかなか上手くいかない、もちろん専用のハサミを使うのだが、・・・と話す。
斉藤は何か電動式の鼻毛を切るものを使うと、教えてくれた。
さすがサンフランシスコ、シリコンバレーの近くだけあって生活のスタイルが違う。
マサが私と斉藤を見比べながら、「自分は手、指で抜いちゃいます」とジェスチャーをまじえながら豪快に話してくれた。
斉藤と二人、呆気にとられたが、すぐに爆笑した。
練馬の大根は有名である。大根を抜く様に、鼻毛も指で抜いて仕舞うのかと思った。
電動式より大根を抜く様に鼻毛を抜いたほうが、なんとなくカラテ家らしい。
さすがマサ、ラースト内弟子{サムライ}である。マイリマシタ!
私もマサに習って、チックリと痛さがくるが我慢して指で抜こうと決心する。
7月16日木曜日
朝いよいよオレンジビーチに出発である。カールが時間通りにくる。
車は私のSUVである。ビーチでの撮影もあるので荷物が結構多い。
ワールド大山空手を代表する3人、頭を捻りながらゴチャゴチャ話し合う。
私はコーヒ―を飲みながら見学である。なかなか荷物が詰まらないようである。
最後は力任せに押し込んでしまった。やっぱりなぁ~、と思った。
俺はまだまだ頑張らいといけないようである。
3人に全部荷物をおろさせ、私がやり直した。
うまく全部綺麗に詰め込めた。これホントの話である。
読者の人、門下生も私の苦労が分かってもらえると思う。
3人の顔を見ながら、直井道場のあの黄色いバットがあったらな~と、思った。
昔から武道界にはいろいろと先人達がいい言葉を残してくれている。
若い時には、技に頼らずに速さと力を付ける事がたせつだと言う言葉がある。
変に自分の技を工夫してチョコマコ、チョコマコするような組手をするんでは、先が見えて仕舞う。一つ一つの基本の技に力とスピードを付けるようにして稽古する。
若い時にドンドン力と速さを蓄える事が大切である。
力も速さも中年や年を取ると伸ばすと言う事が難しくなる。
年を取ると身についた力と速さを、なんとかキープする稽古に変わる。
三人の先生の顔を見ながら「君達、ソロソロ中年の歳になるのではありませんか、がむしゃらに力に頼らず、頭に頼ったらいいのでは・・・」と言いたくなったが、勝負しても敵わないので我慢した。
前にも言った様に私が詰めかえさせて、綺麗に無理なく収まった。
繰り返して言うがホントである。念のため。
午後ビーチに無事着く。ちょっと休んでカメラマンのシェイと打ち合わせ、撮影に入る。サムライの顔付で撮影するのだが、途中ビキニスタイルの女性が通る。目線が変わる。「はいカット、やり直し、キミー、そんなに変に格好つけなくていいです」頭が痛い。
でも若さは!?羨ましい・・・と思う。
途中でカールが直井先生から連絡を受ける。今回は直井一人旅である。
フロリダのペンサコーラと言うエアポートからレンタカーで、フロリダとアラバマの境目にある、ここオレンジビーチまで一人で運転してくる予定である。
心配である。空港からオレンジビーチのホテルまで40~50分ぐらい。
途中からの電話では、後15分位で着きますと言ってきた。
ビーチでの撮影を終わってホテルに行く。既に直井は着いている筈である。
ところがまだ着いていない。嫌な予感がする。
落ち着かず気をもんでいる時にカールの電話が鳴った。直井からであった。
腹が減ったので途中マクドナルドによってハンバーガーを食べていると言う。
思わず殺気が出た。夜のミーティングには間に合った。
あの長方形の筋肉に締まった力強い顔の中、細い優し目をパチパチさせて「オス、オス・・」と繰り返している直井の顔を見たら怒れなくなった。
7月17日金曜日
今回のサマーキャンプ、型と組手の繋がりがテーマである。
参加者が殆どアドバンスの生徒なので指導も自然、熱が入りやすい。
カラテ界にはいろいろとその流派によって基本的な型がある。
ただ昔から常に疑問に思っていた事は型と組手の繋がり、と言うか関係が自然なかたちになっていないのでは、ギャップがあり過ぎるような気がしていた。
もちろん型が無い流派も稀ではあるが有るときいている。
サマーキャンプではワールド大山空手の「基本の型」を徹底的に稽古する事である。
そこから、その型をどのように自分の組手に生かす、アレンジするかを模索させる。
今回の講習で、そのヒントを具体的な例をあげて見せる。
後は、それぞれ自分の道場に戻ってこのキャンプで得たヒントを練っていく訳である。
“ビーチの朝の稽古が終わると何故かみんな楽しそうに香奈子ちゃんの側にくる”
午前中の稽古ではなぞる様にゆっくりと技とその流れを指導する。
そこから拍子を変え、力と速さの変化を自分のイメージに生かし練る。
午後からの稽古で、相手を置いて実際にその型の動き技を試す。
同じ相手だけと稽古するのではなく、どんどん相手を変えていく。
流れの速い稽古はすぐに息が上がるようだ。息が上がってからが本当の稽古だと檄を飛ばす。門下生に言ってるだけではなく、自分にも言い聞かしている。
7月18日土曜日
稽古は昨日と同じ内容でこなす。
ビーチでは八倒の型の応用を相手を置いて稽古する。
午後の稽古、基本の型を指定して組手をさせる。
組手から又型に戻る。型から又組手に入る。相手を変えてドンドン動かせる。
稽古は自分との闘いである。
どうしても身に付いた簡単な技に頼る組手になりがちである。
自分の技や力を次のレベルに上げる為には、自分にチャレンジしなくてはいけない。
自分のカラテを大きくするためには失敗や負けることを恐れてはドアは開かない。
冒険が必要である。冒険はチャレンジする精神から生まれる。
痛い思いや口惜しい思いを身体で受けて、その経験を生かす。
その経験が未だ見ていない自分の可能性を開いてくれる。
武道の素晴らしさは、自分と勝負することにある。
稽古を頭から入ると、必ずエクスキューズ、言い訳が自分の身体精神を蝕む。
コツコツと基本の技を正確に、深く身体の中に溶け込ます。
その基本の技を型に昇華させる。そこから自分のカラテを大きく開かさせる。
私の気合が落ちると皆の気合いも落ちる。
指導は本当に自分との真剣勝負である。
皆に叱咤激励しながら自分にも言い聞かす。負けられない。
最後の稽古、午後5時に終わる。いい汗を流した。
無事サマーキャンプを終える。ワールド大山空手バンザイである。
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押忍。 最高師範の今の弟子の方々の事は、ブログを読んで分かります。 自分のような第1回極真世界大会の頃に、極真総本部に入門(池袋総本部で泰彦師範、三浦美幸師範、金村師範を見かけた事があります)、した者にとりましては、その頃の、ウィリー、フランククラーク、チャックチズム、デニステイラー、Eフレジャーなどの方々が、今、どうされているのか、知りたいです。
from 佐藤勝弘(2015/08/19)