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国際大山空手道連盟 WORLD OYAMA KARATE ORGANIZATION

第25話 Boilerルーム道場

9月が終わろうとしている。それでも、バーミンガムは残暑が続く。
朝の散歩いつもの小道、ところどころに枯葉が目立つ。
雑木林の中も半分ぐらいは枯葉で覆われ始めている。
セミの鳴き声が消えて、かわりに虫の鳴き声が聞こえる。初秋である。
私は歩き始めて5~6分で汗が噴き出る。
昨晩稽古の後飲んだビールの美味かったこと、汗の中にその香りが感じられる。
ときどき林の中を通る風が汗を拭ってくれる。
夏の暑熱を含んだ風は重く、身体にまとわり付くようで涼しさを感じないが、今朝の風は、サラサラと軽やかに涼しく、身体の汗を拭いてくれるようである。気持ちがいい。
朝夕は涼しくなったが、例年残暑は10月まで続く。
と言う訳で汗を流しながら書いた、ワンダフル空手第25話である。

 

 

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穴倉から出てくるような感じで、時間になると生徒が姿を見せた。
伝統的な白い道着の生徒もいたが、腕には時計、指にはいろいろな色の指輪が光っていた。おまけに首にもネックレスが人によっては2~3本吊るされている。
よく見ると生徒の口がよく動く、クチャクチャとガムをかんでいた。
女性も4~5人いたが耳より大きなイヤリング揺らしている生徒もいた。頭が痛くなった。道場は薄暗いボイラー室、生徒はオバケかユウレイじゃないかと勘違いしそうである。
NYの道場とまったく違った世界が眼の前にあった。
ホントにこれが極真カラテの支部か、信じられなかった。
私が来ることを支部長のロン先生が既に宣伝していたのか、狭く薄暗い地下のボイラー室に見学者が群がっていた。なんか眼だけが光っているような、異様な感じがした。
それでも何とか自分の気持を奮いただして稽古を始めた。
身体の調子はだいぶ良くなっていたが、脇腹のヒビが完治していないようであった。
大きな声で気合いを入れると脇腹にひびいた。
とにかく稽古を始めなくては問題の発展はない。約2時間休みなく突いて蹴って受けた。ここの門下生は基本も型もメチャクチャであった。
間違いをいちいち直していると稽古のリズムが無くなるので、ミスを見ないで指導する。
自分の身体の調子を整えるための稽古にした。
それでもロンも生徒も最後まで気合を入れて、いい感じで付いてきた。
稽古の最後に空手の道着、礼節を、つたない英語とジェスチャーを交えて話す。
ロンが私が何を言いたいのか、真剣に聞いてくれて私の話を通訳みたいに補助してくれたので、なんとか生徒に通じたようである。
みんな素直に頷いていたのでなんとなく安心した。
帰り道、今のボイラー室の道場から他の部屋に移れないか話をする。
ロンが柔道の部屋はもっと大きく明るいと言って、その部屋に案内してくれた。
その日は柔道の稽古はなった。柔道は盛んなのかと聞くと、メンバーは10人前後だと説明してくれた。週何回稽古があるのかと言うと、2回と言った。
カラテの稽古は週3回でボイラー室である。

 

私が指導するようになってから毎日のように入門者が入ってきた。一週間しない内に30人位になり、地下のボイラー室が生徒の数で身動きできなくなる。
翌週、私は柔道の部屋とカラテの部屋を交換するべきだとロンに話す。
生徒の数が全然違っている。

 

ロンは直ぐMRS.ガーウック女史に交渉する。
MRS.ガーウック女史のオフィイスで柔道の先生を交えてミーティングすることになった。
名前は思い出せないが、柔道の先生は中年の背の高い男であった。
身体が大きいが一見すると締まりがなく、体を鍛えているようには見えなかった。
だが口の利き方は大きく、鍛えているようであった。
柔道の部屋とカラテの部屋を交換する件を話し始めると、突然、自分は今までいろんな相手と対決したが負けた事がない、と武勇伝を話し始めた。
私は何故、彼がそんな話を始めたか理解できなかったが、あとでロン説明してくれた。
私の身体が細く、背もないので彼が武勇伝を話せば簡単に引き下がると思ったようである。ところが、ロンが息巻いて「ヨシ、俺と勝負しようか?」となったのである。
代表的な深南部の淑女ガーウック女史、そのオフィスでの揉め事、彼女が慌てた。
女史の慌てぶりが面白く私が吹き出してしまった。
残念ながら、柔道の先生のハッタリはロンの気合いでどこかに消えてしまった。
結局生徒の数と、稽古の日数で、ボイラー室から新しい部屋に移ることになった。
バーミンガムに着いて2週間後の事である。

 

 

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話を続ける前にあの頃のアラバマの空手の事情を説明したい。
第一はカラテの対する基本的な姿勢、と言うか考え方である。
バーミンガハムの極真会の黒帯はカラテを趣味の領域で考えているようにみえた。
カラテを指導して飯を食っていけるなどとは、まったく思っていなく、想像外であった。私は極真カラテ発展を考え、カラテを指導して食っていく覚悟であった。
何時の日か自分の常設道場を出すのが私の夢であつた。

 

ところがここの支部長ロン先生はまったくカラテに対する意識が違っていた。
来て直ぐある晩、稽古後ロンの家で夕食をご馳走になりながら、よもやま話をしているうちに、話題がカラテのプロの話になった。
私は趣味でカラテを稽古し、指導しているのではないだ、極真カラテと言う日本の文化を紹介し、指導して食っていくProfessionalプロペショナルなんだ、カラテだけで生活するので他の職業は考えていない、と言う。
ロンの意見は全く違っていた。
NYで兄貴や忠さんが立派に道場を経営していることをロンは既に知っていた。
とくに忠さんは私が来る前に何度かアラバマにきて審査や講習会を開いていたのである。実業家ロンは、私の話を聞いてくれたが、かれは自信をもって私に諭すように「深南部バーミンガムでは極真カラテだけでは食っていけないよ・・・」と話してきた。
「うーん」と唸った。どうやってロンの意識を改革すればいいのかお先真っ暗であった。

 

もう一つの特徴は、カラテの稽古内容である。大きく分けて二つあった。
私がバーミンガムに着任した頃手広く道場を開いていたのは、日本のW道流派のながれを組むカラテであった。なんとその流派の本部はハワイであった。
バーミンガムの街のショッピングセンターのあちこちに4~5軒の道場を開いていた。稽古内容はテニス・シューズを履き、気合いも「シー、シー」と言う、濁音であった。
組手も約束組手だけであり。実際に充てることは禁物であった。
間違いなく黒帯がとれるシステムなっていたようである。まったく頭のいいやつである。

 

もう一つは極真スタイルである。これは基本稽古や型はサラッと、まさにサラッとこなしあとはガンガン当てる組手である。ビックリしたのは初心者、入門したその日に組手をやれされ、それも顔面ありである。
それが真のカラテ、極真カラテであると信じているのである。
突きも蹴りの受けも知らない相手を、先生が殴って、蹴ってしまう訳である。
無茶苦茶である。当然道場など発展する訳がない。
その先生が眼の前で微笑を浮かべて食事をしているのである。
あの頃なぜかロンの気合いが「パオー、パオー」だった。私がなぜそう言う気合いなんだと聞くと“映画バットマンの中で悪人を叩くときに、バットマンがパオーパオーと気合を入れて殴る、それが格好がいい・・・と思った”と返事が返ってきた。
「パオー」と気合を入れて、何も知らない初心者の顔面に正拳が決まる。
想像して“ゾッ”とした。ホント、参った! 頭が痛くなった。

 

 

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写真:ミスター、パオー師範ロン80歳を過ぎても現役である

 

 

アラバマ州バーミンガムにきて今年で44年になる。
支部長のロンは今ではワールド大山空手の師範である。
この項を書きながら昔の日誌やノートを読んだりしながら記憶の糸をたどってみた。
思い出せることあるが、霧の彼方に消えてしまったことも多いようである。
ロンは家族のように私を世話してくれた。ホント今では兄弟以上の付き合いである。
あの頃、なんとかロンの意識をどうやって変えさせるか随分と悩んだ。
二週間が過ぎるころ、身体の調子も良くなり組手が出来るような状態になった。
決戦の時が来たのである。
私が来る前にすでに黒帯、茶帯になっている連中と対決することした。
続く

コメント (2) | 2016/09/30

ワンダフル空手

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“第25話 Boilerルーム道場”へのコメント (2)

  1.   いつも楽しく読ませてもらっています。昔読んだ「空手バカ一代」の実伝を読んでいるようです。もうすぐ還暦ですが総裁存命中の極真会館本部で4年その後ブランクをへて松井派城東支部で1級を取りました。糖尿がでて現在中断中です。武道で生活するのは昔も今も大変です。空手でさえ厳しい昨今ですが郷田師範は総裁のお陰で自分達は生活できるようになったと聞きました。アラバマでの先生の開拓発展の御苦労に大変興味があります。 

    from タケちゃん(2016/10/01)
  2. 毎回貴重な御写真を拝見出来嬉しく拝読してます。
    ロン師範は極真系の映画で何回か見て居ます。
    今も現役というのは嬉しい事ですね。
    集合写真の最前列右側の黒帯の方、その左側の方
    最後列の鉢巻をしてる方は写真・動画で何回か見た記憶が有ります。
    続きを心待ちしております

    from ミット鈴木(2016/10/05)

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