先週まで続いた寒波もいくらか和らぎ、今朝は気持ちのいい陽が肌に温もりを感じさせてくれる。太陽は元気を与えてくれる。
もう、1月26日である。あっという間に時間が過ぎていく。
さてさて、ワンダフル空手第8話である。
兄の話を聞いてから稽古に対する私の気持ちと言うか気合が大きく違ってきました。
何か、夢中になるというか、もう春山のことしか頭に入りませんでした。
道場の稽古で基本稽古からライバル春山をイメージしました。
正拳も春山の厚い胸板をぶち破る勢いで突き、蹴り技も、回蹴りや前蹴りで春山の強面を潰すだけでなく、金蹴りでも春山の金的を粉々にしてしまう気合で蹴りました。
春山をイメージして基本稽古、型、約束組手、合同稽古と流れていくのですが、組手になると、何故かイメージが変わってしまいました。
自分の眼の前で春山のうなりを挙げる突きや、電信柱みたいな脚の蹴りがガーンと決まり、自分の歯が立たない先輩達が苦悶している姿を眼にすると、見ている私の身体が痛みました。
実際に自分が殴られているような錯覚になるのです。
特に相手が派手にドーンと床板に音をたてて倒れると思わず眼をつぶってしまいました。
それでも、稽古にいくらか慣れてきました。
稽古前に、自分なりにいろいろと自分の技、動きを組み立てます。
あの先輩にはこうして正拳を決める。おまけに回蹴りを顔面に。
あの黒帯の先輩はいつも「マイリマシタ」と言っているのに執拗に当ててくる。嫌な先輩だ、今度組手になったら端にあるコンクリートのウエイトのところに誘って投げ飛ばしてやろう。
・・・と、いろいろと自分なりに作戦を考えるのですが、いざ、目の前に先輩の顔を見て「オラー」と気合を入れられると、自分の練った作戦は嘘のように消えてしまいました。
後は、追い掛け回され、顔面や、水月、モモに蹴りや突きをもらい、何度も何度も「マイリマシタ、マイリマシタ」と叫んでいました。
特に、春山と対戦する順番を待つときは、口の中で「マイリマシタ、マイリマシタ・・」と自然に復唱しているのでした。
今までイメージしてきた私の正拳が春山の厚い胸板に決まり苦しがっていた春山の顔はどこか跡形もなく消えてしまいました。
替わりに目の前にいるのは地獄から来た閻魔大王でした。
稽古前、自分を奮い立たせていた気合が稽古の後は何も出来なかった自分に対する自己嫌悪に変わってしまいました。
そんな明け暮れでしたが、それでも突いて蹴って、受けて、マイリマシタと叫び続けるうちにいくらか私の実力が上がったようです。
あっという間に1年が過ぎました。
基本の技が身体に沁み込んでいる。技が時として無意識に出る。
それでもわがライバル春山の強さは依然として及びがたく、組手の時間になると自分自身を奮い立たせるのに相当の勇気が要りました。
しかし春山にはまだまだ歯が立ちませんでしたが、他の先輩たちにはボツボツと私の突きや蹴り、投げ技が決まりだしました。
今も時々どの道場でも見られると思うのですが、後輩の突きや蹴りが先輩にヒットしたりすると急に組手の時間が長くなってしまうのでした。
1発の突きや蹴りが、10発ぐらいになってかえって来るのでした。
時間を伸ばしても技が決まらないときがあります。
意地の悪い先輩は自分の技が決まらないと納得しない訳です。
「オイ、も一度やろう・・・」
勿論、「いや結構です」とは言えません。
当てた技を倍にして返されるのです。
それでも「オス、アリガトウゴザイマシタ」である。
現在のカラテ界は大会が主流になっているように見えます。
当然道場での組手も大会ルールに従った内容になってしまうようです。
突きから下段、試合時間の最後にラッシュする。そんなパターンが多く見られます。
受験勉強ではないですが傾向と対策を頭に置いて稽古をする訳です。
大会で有効な技を自然に身に付けて後は省略してしまい、基礎体力をドンドン付けて稽古を終えてしまう。
特に顔面を手技で攻撃してはいけないルールだと間合い角度の取り方が雑になるというか、緩慢になりがちです。
突きを身体で受けて相手を押し込んでいく組手がよく見られます。
またその流派の選手が主な大会では試合の内容が殆ど同じようになってしまうのです。
その点海外では大会がオープンのところが多く、当然いろいろなスタイルの組手が見られるし、お互いに影響しあうようです。
組手の内容もいろいろと出てくるわけです。
話がちょっと本題から逸れてしまったようです。
遠い昔、私が燃えていたあの頃、立教大学裏の今にも崩れ落ちそうな建物、床板が歩くたびにギシギシと泣くようなおんぼろアパートの中の道場では、個性のある先輩が綺羅星のごとくたくさん輝いていました。
ガタゴトと音を立てなければ開かないドア、入ってすぐ左の隅にマス大山の小さいテーブルがあり、先生はいつも大きな身体をかがめる様にしながら何か書き物をしていました。
正面の窓の上に神棚がありました。
入ってすぐ右の隅には針金に風呂敷の大きい布を使ったようなカーテンをつけ更衣室代わりにしていました。一人ずつ入り着替えるのです。
左側に吹けば飛ぶような窓がありました。
窓ガラスの半分以上は割れてありませんでした。右側は板塀になっていたようです。
そこに時々どこかの奇特な人から大きな鏡が寄贈されるのですが、1ヶ月もしないうちにその鏡が半分なり、ちょっと時間が過ぎるとその半分になり、さらに半分になり最後は手鏡の大きさになりました。
その鏡を見ながら切れた唇や、歯が欠けた後や、目の上の傷をチェックしていました。
神棚の左端にコンクリートを固めて作ったウエイトが2~3ありました。
右端の隅に小さいサンドバックが吊るしてあったと思います。
鏡の横の壁には無造作に釘が打ち付けられてあり、そこに結構たくさんの道場生が道着を掛けていました。
稽古に慣れるまではあまり気が付かなかったのですが道場の中に何が何処にあるか、門下生が何処に座っているかそれら全てを頭に入れておく必要がありました。
ルールがあるようでない組手です。
目つきも、金蹴りも勿論ありです。
目つきはよく人差し指と中指でブスと眼を刺しこむのではなく、指の先でハッと払うのでした。
決まると涙が出るし当然眼を両手でカバーする訳です。
その瞬間、相手は殴って蹴って来る訳です。
残酷であります。信じられないような組手なのです。
構えを開いて「オレオレ」などと気合を入れながら間合いを詰めてきたら、金玉が10個20個あっても足りません。
すぐに病院です。金的を蹴られた方が悪いのです。
当然構えも半身になり、いつも前足で大事な金的をカバーしていました。
なんか、金的の話が長くなってきたようです。
疲れてきたようなので今回はここまで、でもすぐに続きを書きます。約束します。
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