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国際大山空手道連盟 WORLD OYAMA KARATE ORGANIZATION

トレーニング・スタート

 月曜朝、道場での初稽古である。先生のトラックの荷台に乗る。
 ホームウッドの街は、首をくの字に曲げて、空を見上げる事も無く見渡せる建物ばかりであった。
 ここに来る前は、ニューヨークやシカゴの摩天楼を想像したが、普通に立った姿勢から、町並みが視界に入ってくる。
 ハイウェイに面している15階建てのビルを除けば、後はせいぜい、高くても2、3階建てであり、その上に、澄んだ青い空が広がっている。
 コンクリートやレンガ、石の塊の街ではなく、土や樹木、空を愛する人々の温もりが漂っていた。すぐに馴染める街のような気がした。
 
 
 道場はホームウッドのダウンタウンのメインストリートにあった。洒落たレストランや、ブティック、ヘアサロン,コーヒーショップが並ぶ目抜き通りであった。
 道場は元映画館か、劇場のような建物で大きなウインドウが通りに面していた。その上にグレーの壁に、明るい黄色文字で「OYAMA KARATE」とサインが出ていた。
 ダウンタウンにくれば、否が応でも眼に入るロケーションであった。
 行き交う車の中からも道場の中が見える。
 
 道場の裏に専用の駐車場があった。先生の後に続き道場に入る。
 ムッとする汗の匂いが身体を包んだ。サッカー同好会の部室も汗臭かったが、道場の臭いは半端ではなかった。
「マサ。カーテンを開けろ」
「オス」
 長い間、日に照らされ、埃で変色したような綿のカーテンであった。
 道場は一階にあり、二階が男女のロッカールーム、師範のオフィスになっていた。
 
 先生の後に続いて階段を上がる。緊張感が胸を圧迫してくる。師範は眼鏡をかけて書き物をしていた。入ってきた僕達をゆっくり見ながら眼鏡を外し、背中を椅子にもたせるようにしながら
「おー着いたか。昨日は走ったのか?」
と僕の顔を見て、それから先生の方に目線を移して訊いた。
 
 顔には微笑があったが、眼の光は、腹の底まで見通すような力を感じた。日本で会った時とは、まったく印象が違っていた。先生が
「オス。走りました」
「そうか、走ったのか。どれくらいかかったんだ?」
「2時間近くかかったと思います」
「そうか……。2時間か……」
 呟くように言いながら、僕の顔をじっくり見た。
 素裸にされたような気持になり、汗がにじみ出てくる感じだった。
 
「マサ、何でも最初はきついんだ。でも、慣れたら、どうって事ない。お前がここまで来たという事は、一歩前に出たということだ。頑張れよ」
 いつの間にか3人の先輩が後ろに立っていた。
「森、マサは2週間くらいはお客さんだと思え」
 と言いながら、目線を後ろの先輩達に向け
「お前達も分っているな!」
「オス」
「朝の稽古は、森がマサと組め。技を追いかけなくていいから、早くこの雰囲気に慣れさせろ」
「オス」
 
 
 師範の部屋を出たとたん、何かホッとした。心なしか先生や先輩達も顔が緩やかに見えた。
 朝8時からの稽古は、内弟子だけのクラスだった。
 道着のパンツに、Tシャツという格好である。柔軟体操は各自でこなしていた。僕は先生に従って身体をほぐした。
 
 先生が股を開いて、金的が床のマットに着いたのに驚いた。
 僕は体質的に柔らかい方だが、両足を開いても、金的からマットまで20センチ位幅があった。
 先生が僕の方を見て
「マサ、悪くないぞ。そこまで開けるなら、すぐマットに着くよ」
 認められたことで気分が良かった。
 
 先生が、柱についているストップウォッチをスタートさせる。
「軽くシャドーだ」
「オス」
 先生達も、滑らかに突きや蹴りを出し始めた。
「マサ、何でもいいからパンチを出し、蹴るんだ」
 戸惑ってしまったが、皆、僕など存在していないという感じで、それぞれ自分の動きをとっている。
「マサ。突き技、パンチは足腰のリード、パワーだ。蹴り技は上体のリードだ」
 そんなこと言われても解るわけがないのだが、でも何となく解る様な感じもする。
 
 先生は話に夢中になってくると、こちらの相槌を促すように下から睨む。半分くらい口を開いて「分ったか〜?」という顔になる。
 初めは怒られているのかと思ったが、そうではなくて、先生が真剣になっている時の癖だとわかった。
 
 
 師範が二階から降りてきた。
 急に先生や先輩達の気合が大きくなった。何か、動きまでも鋭くなったように見える。道場にピーンと糸が目いっぱい張られたような緊張感が走るのを感じた。
 
 内弟子の稽古は、それぞれ課題が決まっていた。身長があり、身体のいくらか大きい僕が、森先生の技を受ける事になった。
 不安と恐怖が襲ってきた。
 「嫌です」と口から出かかるが、そんな事を言ったら大変な事になると、本能がその言葉を飲み込ませた。
 師範は僕の顔が引きつったのを見たのか、
「マサ、コンビネーションは決まっているから心配するな」
とニコニコしながら言ってきた。
 
 両足のももの所にローキックを受けるための、厚いゴムのパッドを着けさせられる。胸には野球のキャッチャーが使うような、チェストガード、頭にヘッドギア、両手に蹴りを受けるための、アームガードを持たされる。
 使い古しのロボットのような格好である。
 師範が笑いながら、
「マサ、鏡を見てみろ。良く似合ってるぞ」
 鏡の中には大きなゴムの塊がいた。いつの間にか師範の手には竹刀が握られていた。
「3分、4分、5分、5分、4分のタイムでやってみろ」
「オス」
 
 
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コメント (0) | 2010/10/15

内弟子 in America

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