千葉真一さん
夜の大会は昼間の大会と全く違った雰囲気であった。
ミットに突きや蹴りを入れる人、ストレッチをしながら話をしている人でさえも昼間の雰囲気と全く違う。時々笑顔を見せるが、明らかに緊張しているのが分かった。
華やかな大会の中にも、その華やかさに浮かれてしまわないように、ピーンと糸が張られた緊張感の中に自信と不安が入り混じっているのが感じられる。
コーチの高橋先生と一緒に僕は森先生の付き人になった。
ミットとタオル、それにウォーターボトルを持って先生の後に付いていた。
選手控室での選手のウォーミングアップは、パワー、スピードもまったく僕達のレベルとはちがっていた。
蹴りも、突きもうなっていた。
ミットから返ってくる響きも、僕の気持ちを威圧してくる。甘い感情は許されない雰囲気だ。
試合が始まる。
この大会は地域の予選を通過して来た選手とシードの選手8人が競い合う。
試合は軽量級から始まった。主審はペリー師範代、副審に海外から見たこともない支部長の人がついた。
秀先輩の試合はスタートから激しいインファイトに始まった。
一瞬、胸や足にヒットする突きや、蹴りの肉をえぐるような音が観衆の口をふさいでしまう。
試合中盤、2人がもつれた時、秀先輩が跳んだ。
跳び膝蹴りだった。相手は膝から崩れて倒れた。
静かだった観衆から大きなどよめきと拍手が大きな渦となって会場を包む。
鮮やかな一本勝ちであった。僕の血が騒ぎ出してきた。
軽量級最後の試合で輝先輩が出た。道場の組手ではいつも早い足の運びから、突きや蹴りの連打を得意とする先輩がスタートから動きを封じられ苦戦していた。
試合がもつれ、延長に入る。相手のスタミナがいくらか落ちて来た隙を輝先輩の連打が決まり、ポイントをわずかだが取ったように見えた。
判定は輝先輩に上がった。控室に戻っていく先輩が肩で息をしていた。
重量級の第一試合は鉄先輩であった。僕は生徒と一緒に鉄先輩のコーナーから声援を送る。
相手の道衣を掴みすぎると注意を受けたが、最後は左の振り打ちを見事、相手の右脇腹に決めKO勝ちを収めた。
斉藤先輩は惜しくも、判定負けになってしまった。
そして重量級最後の試合に森先生が出てきた。先生の名前がアナウンスされると僕は自分のことのように緊張し、武者震いが襲う。
先生は両手で自分の頬をパチン、パチンと叩いてマットの中央に出る。場内の歓声が大きく響く。先生は一番生徒に人気があった。先生が緑のマットの上をゆっくりと歩いて中央に出る。相手はカナダの選手だった。先生の体が大きく逞しく見えた。両手を大きく天井に突き上げ、脇を絞るようにして両肘を引きつけ構える。
主審の師範代ペリーの「始め」の声が一瞬の静寂を破る。
僕は金的の痛みを忘れて、体に力を入れていた。先生の突きや、蹴りが出る度に、観衆と同じように自然と声が出た。
「行け、行け、おぉ。先生。効いてます。攻めて、攻めて。オー、そこだ!」
ビシ、ビシと突きや蹴りが体の中にめり込んでいく音が僕にはっきりと聞こえてくる。
先生の突きや蹴りがヒットする度に、僕に力が入ってくる。先生の動きはめぐるましく、見ている僕もついていけない。相手はもっと混乱しているようだ。
コーチについている高橋先生が「一分経過」と叫んだその瞬間、先生が近い間合いからさっと跳んで後ろ蹴りを放つ。
相手が右脇を抱えるようにしながらマットにもんどりうって倒れた。
声にならないうめき声を発して悶絶した。会場に大歓声と拍手の波がうねる。
僕は自分の体が熱くなっていくのを押さえることができなかった。
千葉真一さん 大山泰彦最高師範 郷田勇三師範
ヒロインのキャッシーと主役の千葉真剣君
千葉真一さん
世界総本部道場で集合写真
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