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国際大山空手道連盟 WORLD OYAMA KARATE ORGANIZATION

正々堂々

 「よし決勝だ」

 

主審の先生高橋が大きな声で僕とアントニオに向かって言いながら鋭い目線を向けてきた。先生高橋は僕たち二人を交互に睨み付けながら、

 

 「正々堂々と戦え、いい試合を見せろ!」

 

と言った後、僕に熱い眼差を送ってきた。先生高橋の目の色が「マサ、負けるなよ」と言っていた。観衆の熱気が僕たちのマットに集まってきた。

 

 

準決勝で相手の後ろ蹴りを金的にまともにもらってしまい、歩けなくなってしまった。
それが自分の名前を呼ばれ、決勝と聞いたとたん身体に力が漲って来た。ちょっと一瞬前まで動けなかったことが嘘のように感じた。

 

相手のアントニオの前に立ったときアドレナリンが身体中を駆け巡るように感じた。
自分でも全く違う人間になったようだ。

 

 「ジャジ」

 

先生高橋が、4つのコナーを右手で指しながら注意を引き付ける。

 

 「タイムキーパー」

 

 「オス」

 

 「はい、構えて!」

 

待っている間、自分の身体が震えるほど、ドキン、ドキン、と心臓の音がしていたのに、先生の力強い掛け声を聞いたとたん胸の動悸が消えた。

 

 「始め!」

 

先生の合図と同時に僕は踏みこんだ。構えた前の左の拳を力強く出した。アントニオも同じように左の拳を出してきた。ガクッと身体に衝撃が走る。一瞬アントニオの目が大きく開いたように見え、動きが止まったように感じた。僕は続けて右の逆突きを出す。アントニオが左手で受ける。

 

同じタイミングから右の下段回し蹴りをアントニオの左足にヒットさせる。
その後一瞬何故か次の技が出なかった。
攻めなければいけない、と思っていたのだが気ばっかり先に出て身体が動かなかった。僕の下段回蹴りでアントニオが幾らか崩れたが、間合をはずされってしまった。

 

 「マサ攻めろ、下がるな、インファイトにもっていけ」

 

コーチの先輩秀の声が後ろから届く。

 

僕がガムシャラに前に出ながら突きの間合に入っていくと、左、右と動き回られてつかまり難くなってきた。
それでも強引に出たところをガ−ンと相手の前足の速い前蹴りを水月の下にもらってしまった。忘れていた金的の痛みが激しく身体に広がる。一瞬目の前が真っ暗になった。

 

 「オイシャー」

 

と気合をいれると明るくなった。しかし鈍い痛みと両足が急に重くなった。

 

アントニオは打ち合うチャンスをなかなかくれない、軽やかに動きながら鋭い回し蹴りや後ろ回し蹴りを繰り出してきた。何とか受けたけれどその度に鈍痛が襲ってきた。

 

僕は“オイシャ”、“エイ”と気合を入れた。気合を入れないと動けなくなってしまうのではないかと恐かった。夢中で気合を入れて追いかけた。アントニオが派手な蹴り技を出す度に観衆の大きなどよめきが起こった。

 

 「手を上げろ、構えを崩すな、中に入れ!」

 

先輩秀の叱咤の声が届く。少しでも間合を開けると速く重い蹴りが僕の顔面を襲ってきた。何とか打ち合う間合に入らなければと相手を追うがなかなか捕まらなかった。それでも2〜3僕のパンチとローが入った。 

 

 「タイム」

 

と声がかかり黄色いバックがマットに投げられた。主審の先生高橋が我々の間に入ってきた。

 

 「それまで」

 

と言いながら、マットの端に立ちゆっくりと4人の副審を見回しながら

 

 「判定」

 

とパワフルな声をかける。負けているとは思わなかったが勝ったとも感じなかった。
相手の蹴りは受けたが2〜3危ない場面があった。2人の副審が赤のアントニオに挙げた、後の副審は両方の旗を交差し引き分けの合図をする。主審の先生高橋が

 

 「赤、1・2、引き分け1・2、主審引け分け、」

 

と胸の前で両手を十字に交差した。

 

 「延長2分」

 

タイムキーパーの方に右手を指し合図する。金的と腰の部分に鈍い痛みが心臓の鼓動の度に響いてくる。汗が額から流れる。アントニオは落ち着いた顔をしていたが胸が大きく波を打っていた。コーチの先輩秀が

 

 「マサ、チャンスだ、お前は内弟子だ、誰より稽古をしてきたんだから」

 

と僕を睨み付けながら励ましてくれた。そうだ!僕は内弟子だ、こんな野郎より稽古を積んできた。負けてたまるか、延長になれば、僕のものだ、内弟子の気合を見せてやる。この試合は僕のものだ、負ける訳がない。勝つ。

 

 

 

備考:
※アメリカでは先生・先輩を、名前の前にを付けて呼称する.。(Mr.やDr.と同様に)
  例:「Sensei Takahashi ・ 「Senpai Hide」
 
 
この続きは、書籍「内弟子 in America」で!
 
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コメント (0) | 2007/04/09

内弟子 in America

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