夢、希望は持つものである。
希望があるから毎日の生活を乗り越えられるかもしれない。
何の夢も希望も持たないでその日その日を送る人もいるだろう。
それも人生かもしれないが、何か夢や希望があるとエキサイトな人生が有るのではないかと思う。ま~どちらでも良い。
撮影開始します!
5月6日
いよいよ撮影開始である。
朝道場に向かう。練馬のマサと、サンフランシスコの斉藤が一緒である。
道場の裏のパーキング場を見て驚いた。機材とクルーで一杯になっていた。
「オイ オイ、チョット大袈裟ではそんなに予算はないよ・・・」
危惧が頭に走る。
寝ぼけた顔のマサと斉藤も小さい眼を見開いていた。
カールも他の黒帯も皆緊張した顔つき。
オープニングシーン
よせては返す静かな波の音。
まだ薄暗い朝方、突然袴の裾を乱しながらサムライが水を蹴って走る。
道着の男がトンファーを持ってむかえ構える。
砂浜で見守る黒帯が正座し、低く力強い声で「オス、オス・・」と連呼している。
白刃が光りトンファーが受ける。
死闘がくりひろがる。
この場面は、主人公マサの夢である。
ところが予算の関係でビーチまでロケに行けず道場で撮ることにした。
この後もいろいろと予算の関係上場面を省略したり、カットしたりする。
なにごとも資金である。
トンファーを持つ大山泰彦最高師範と真剣の千葉真一さん。
撮影前千葉さんと打ち合わせ。
真剣を使うと言ったら千葉さん一瞬驚く。
照明、カメラ1、カメラ2、オーディオがセットされる。
私も緊張したが、黒帯連中が皆、可笑しいぐらいに緊張する。
始まる前はカラテの動き、道場での撮影、「簡単、カンタン・・・すぐ終わる」と思っていたのだがとんでもない。
一つ一つの動き、カットシーン、そのつど照明、カメラをまたセットする。
特に照明はデリケートである。
いろいろなものを使いアレヤコレヤとカメラマンと話しあい。
さらに監督(私である)がそのシーンの説明をする。またまたミーティングである。
意見がどんどん出てくる。
時間がドンドン過ぎる。やっと意見が決まる。
セットの準備、これがまた時間がかかる。
正に押忍である。それも爆発寸前、限界ぎりぎりの押忍である。
初日は全て道場でのシーンである。
内弟子の朝稽古、内弟子の午後の基礎体力のシーン。昼寝のシーン。掃除のシーン。
主人公マサの大きな壁、泣くシーン。
どれも私の頭の中では、簡単に終わる予定だったがとんでもない。
朝の8時から夜の10時半まで続いたのである。
その間私は休みなしである。
我が刎頚の友郷田兄はそんな私を見ながらオロオロして「大変だねー!これは全く大変だねー!」と繰り返していた。
ホント正直に言ってこれは俺の身体がもたないと思った。
家に帰る時、郷田兄が「明日撮影に家人のオードリー連れて行ったらいいよ」
「なんで?」と私が質すと
「旦那が一生懸命働いているのを見たら、もっと優しくしてくるかも・・・」
「そんなに甘くないよ・・もしかして、まだまだやれる、もっと気合を入れろなんて言うかもしれないよ」
5月7日 撮影二日目
左から、千葉真一さん、大山泰彦最高師範、郷田勇三師範。
明日郷田兄が帰ってしまうので今日彼の出番を撮影する。
最初この映画化が決まった時郷田兄に、顔だしたら良いんじゃないの、と誘った。
「俺達カラテを通じて兄弟になって、かれこれ50年近くなるよ、だから人生の記念に出演したらいいよ」
「エッ何するの?」
「ウーンやっぱり台詞は駄目だし、お互いに歳もいっているから・・・」
「ブロンドの美人と突然恋に落ちる。そしてラブシーン・・・どう?」
「チョットその顔で、ラブシーン、入れ歯が落ちたらどうするの・・無理」(断っておく我々は入れ歯はありません、話を面白くするため念のため)
「そうだ、ホームレス1、ホームレス2で行こう・・・」
―その線で話がまとまると思ったのだが、外野の反対で朝のジョギングを撮ろうと言うことになった。
私のワイフとその友達女性5人に囲まれてニコニコしながら走ってくれた。
主人公のマサが最初に8マイル走る場面である。
マサが緩やかな坂をよたよたしながら走る。
そのいちばん上で郷田兄とすれ違う。
マサはヨタヨタ、郷田兄は「ワッショイ、ワッショイ」と掛け声を出しながら南部の女性に囲まれて元気よく走っている。
この簡単な場面のワイドショットを、なんと7回撮った。
それからマサの苦しがってる表情、郷田兄のクロスシャット5~6回流石の郷田兄フウフウ言いながら、それでも微笑をたたえて頑張った。
最後の方は流石に微笑が引き攣っていた。ご苦労様でした。
場所変え、今度は内弟子のダッシュのシーン。
練馬のマサもSFの斉藤、カールもフゥフゥ言っていた。
一発で決めよう。元気よくやれ・・檄を飛ばす。
「もう一度、もう一回、あと一回、念のためもう一回、これが最後決めよう、ハイ、アクション、ウーン本当に最後、ここで諦めたら駄目だ、気合を入れてもう一度・・・・」
「ハイ、カット・・良かった、やっぱり諦めなくて、ウーン、次行こう・・・」
こんな感じである。それも毎回である。
夕方からとつぜん激しい雷雨、道場に戻る。
一般の稽古のシーン。
シンシアが道場に入ってくる。アントニオが後ろから入ってくる。二人の言い争うシーン。
予定のショットを全部撮るには時間がない。
シナリオを書き直す。頭が痛い、神経が昂る。
それでもクル―の連中は冗談を言ったり、アイホーンでメールチェックしたりしている。
調子が狂う、カラテ道場でのテンポと全く違う。
自分に言い聞かせる「オス、オス・・」と。
家に帰ったのが23時である。
やっと二日凌いだ。
先が思いやられる。何とかやり遂げなくては。
ワイフのオードリーが、「泣きを入れないで気合を入れなさい!」
君、そんな・・とでかかるが、「オチ」返事する。
続く
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