エッセイちょっと遅くなった。
3月18日 昨晩雨が降った。雨上がりの次の朝は全てが鮮明に見える。
何時も散歩する小道、白、イエロー、紫のワイルドフラワーが綺麗に咲いている。
気持が良い。
珍しく今年の春は遅い。まだジャケットがいる。
アラバマの春は東京の春より約1~2週間早い。
何時もならサクラは満開に咲いてるのだが、今年は遅い。陽だまりの所だけ咲き始めた。
それでも空の青さが穏やかに見える。春はすぐそこに来ているようだ。
今年の春は何時になくスケジュールがきつい。
3月は日本の講習会、審査。
4月にロシヤの講習会、審査。
5月にアメリカンカップ。TAKE A CHANCE{内弟子INアメリカ}映画の最後の撮り直しがある。
6月にサンフランシスコでファイターズカップ。その後、日本での支部長合宿。
何とかこなさないと私がズッコケたら大変だ。
3月21日 日本に出発する。今回の旅は一人である。
旅に出ると時として感傷的になる。思いがいろいろと飛び回る。
今回の講習会、テーマは“構え”である。
構えから始り構えで終わる。
“武は姿なり“武道言葉がある。
”姿”の中には構えの意味が含まれている。
だれが言ったのか知らない。意味深の表現である。
出る2~3日前に直井からメールが来る。
自分の婚約者を紹介したいので空港に連れていきます。
よろしくお願いします。
エキサイトしてる直井のうわずった声が聞こえる。
長い空の旅、コンデションを整えてあるから余り苦にならない。でもキツイ。
約14時間やっと無事到着、日が変って3月22日である。
税関を通過、我が親友の郷田兄、そしてワールド大山空手日本の大幹部直井先生の笑顔。
自然と彼等のねぎらいと歓迎の言葉がうかんでくる。
ロビーに出るドアの前に立つ。サーと音もなく左右に開く。
一度に沢山の人の顔、顔、また顔、が目に入る。
「オス、最高師範お疲れ様です」そんな優しい暖かい言葉、小走りに寄って来てサット私の荷物をとる。
ウーン流石大幹部すべてにそつがない・・・そんな想像を無意識にしていた。
ところが,期待した声は何処からも聞こえない。どの顔も目線が合っても表情に優しさがない、目線もすぐ逸らす。
ねぎらいの声は聞えない。
ボケたか、時間を間違えたか?いや日にちを間違えたか?・・・自分を疑う。
傷ついた心をひきずり、ロビーをウロウロと歩きまわる。三人を探す。
「いた、いた、イタ!」出口とは反対側のカウンターのそばで珍しく背広姿の直井、そばの美人と何か楽しそうに話しをしてる。
その横に郷田兄が携帯で誰かと話している。
何が面白いのか解らないが「ケッケッケ」と笑っている。
思わず掲示板を見上げるも。私の便は赤く到着税関通過と出ている。
掲示板を見て直井を見る。直井を見て掲示板を見る。
血が徐々に沸騰してくる。深呼吸が必要である。しばらく直井を見守る。
いくらか長めの顔、細い優しい眼、顔はデレデレと締りがない。
直井の頭には最高師範は存在しないのである。
忘れられてしまったのである。
眼の前の婚約者しか目に入らないのである。
見つめ合う二人の世界は、花が咲き、小鳥が恋を賛歌しているのである。
此処は空港でもなく、直井にとっては二人だけの愛を語る世界なのである。
一騎当千のサムライも恋をするとこうも変わるかと、驚きである。
ゆっくりと二人の後ろに回る。全く気が付かない。
掲示板なども見向きもしない。
二人の後ろから殺気を出すも、恋心に跳ね返させられた。
仕方がないので“正拳恨み背中突き”を決める。
流石に直井「アッ」と叫んで「オスオス」ときた。
「君ねードウシタノ!エッ!掲示板見てみな予定どうりでしょう、エッ!この人、婚約者、オレが貰うよ!」
直井泣きそうな顔になる。先が思いやられる。
でも我が友も、直井もその婚約者も元気そうである。なによりである。
ホテルにチェックインする.直井がソワソワする。腰が引けている。
顔も身体の動きも後ろへ後ろへと向かってる、その先はドアである。
速く私の部屋から出て婚約者と手を取り合い、愛を語りたいような顔である。
空港での仕返しをしなくてはいけないと思ったが、恋の邪魔はいけない。
勘弁してやる事にする。年のせいか気合いが弱くなってきた。反省である。
直井、分かる分かる、俺も昔は恋をした。
そばの郷田兄の顔をつくずく見ながら、この人も恋を・・・となぜか一瞬思う。
夜先生マサが来る。相変わらず元気でよかった愛情と尊敬心を忘れるな、と言ってマサージをさせる。
毎日が敬老の日と思え、と念を押す。返事がなかった。
3月23日鈴木師範が朝5時ピッタリにドアを叩く。私も時差で2時には起きていたので間をおかずドアを開ける。姫路へ出発である。
新幹線全て予定どうりである。
車中鈴木の話を聞く。物知りである。なかなか深い話をしてくれる。
最近の社会問題、刑事事件から経済、政治問題、話題が豊富である。
ヨーロッパ、アメリカの関係まで話し始めた時は東大の教授でもなったのかと思った。
話が終わったと思ったら鼾をかいて寝ていた。豪傑である。
姫路には山本師範とその生徒が迎えに来ていた。
直井と違って出口で迎えてくれた。流石である。
それが礼儀である。直井お前忘れるな!
時間があったので山本の道場による。
ロッカールームの横に整体用の部屋があった。
山本師範は整体の免状を持っている。
「オイ、ちょっと体ほぐしてくれ、請求書は鈴木に送れ!?」
姫路は東京より気温が低かった。山本気を使って部屋に暖房を入れてくれる。
整体用のベットに横になる。スタートは何か優しい感じである。
徐々に力が入るのかと思っていたら何時まで経っても、摩っている様な、くすぐっている様な感じである。
「オイ、もうチョット力を入れろ」
「オス、ハッもっと・・・ですか?」
「お前ねーそんな力の入れ方だったらお客が付かないよ、お客が逆にお金を請求してくるぞ・・・」
「オ~ス、ふーん、そうですか」山本急に感心して唸りだした。
「オイ、どうしたんだ」
「あるお客が自分の整体を終わって、これからマサージに行くと言っていたので、変な客だなーと思っていたのですが。力が足らなかったんですね」
「お前ね、整体もマサージも相手が悲鳴を上げるぐらいにやらないと効いた感じがしないんじゃないの、摩ってたり、くすぐってたらお客は逃げるよ。オレが何時もやってもらっているマサージの人、倉田氏、郷田師範の紹介なんだけど最初の時、からだに激痛が走ったよ、殺されるかと思った。でも終わった後10年は若くなった感じがした、それから毎回お願いしてるんだ・・・」
「オ~ス、フ~ン、そうですか。有難うございました。だれもそんな事言ってくれなかったので」
その台詞を聞いて山本の顔をまじまじと見る。
何時も山本は別世界に住んでるような感じがする。不思議な人物である。真面目である。
時間がきたので講習会の会場に行く。
会場には近辺の支部長が既に来ていた。
相変わらず輝先生は元気が良い。姿、動きに気合が入っている。
見ていて気持が良い。
指導の内容は、“構え“である。生徒の構え、動き、技を見ているとなんとなく先生の指導内容が解る。勿論個人差はある。
指導は真剣勝負である。気合いが落ちるとただのエクスサイズになってしまう。
武道の意味が消える。指導して指導される。まさに自分との戦いである。
約2時間にいい汗を流した。
春季講習会集合写真(姫路)
審査も無事終えて東京に戻る。深夜である。
時間は11時半、ホテルの湯船につかり気を静める。
ビールを1本~もう1本~飲む。本を読む。
眠気が来る、よしライトを消す。眼を閉じる。
オッ朝か、とベットの横の時計を見る。午前1時である。ウ~ん。又本を読む。
TVをつける。TVを消す。本を読む。みんな直井が悪いんだ!逆恨みである。
3月24日東京の講習会。
会場で支部長や門下生を見ると気合いが入る。まだ、まだ若い。
武道でも、スポーツでも言える事はその人の構えを見ると稽古の跡が見える。
勿論全てに言える事ではないが、ある程度読める訳である。
自分の技、力、速さ、総て構えにかかっている。
私はまだ修行の身である。
自分の構えに付いて考える。動く。気を練る。まだまだ難しい。
しかしここまで来た経験を我が門下生に伝えるのは私の責務である。
だから稽古をする。
稽古をしないと構えが弱くなり、時として消えて仕舞う。
ただ構えと言っても動かずに立っているだけではない。
動きを入れても乱れない。さらに動きながら技を出す。相手をおいて動く。
そこまで自分の構えを練る事が大切である。
今回は一人での構えの稽古から,四方の型を使い、相手との激し動きの中で構えを練る稽古を指導する。
見ていると大人も子供も構えが乱れて来る門下生は息の上がるのが速い。
普段の稽古の量、気合いがすぐ構えに出る事が分る。
気持のいい講習会であった。
春季講習会集合写真(東京)
次はロシヤの講習会である。こうご期待!
« 毎日が素晴らしい | ロシヤより愛をこめて 009 »
すべての項目に入力してください。
こんばんは、倉田です。今日は有り難う御座いました。早速拝見させて頂きました。お褒めに預かり光栄です。
何時も、楽しいエッセイ楽しみにしております。
これからも頑張ってください。
押忍。
from 倉田(2013/06/18)