このタイトルには特別な意味がない。
ただ昔007、ジェームスボンドの映画”FORM RUSSIA WITH LOVE”があった。
それをもじっただけである。
日本から帰ってくるとアラバマのサクラは葉桜になっていた。
緑が萌えている。色とりどりのアゼリアの花が咲きみだれている。
春爛漫である。
時差を取るのに一番いいのは汗をかくことである。
セント・ピーターズバーグにて大山泰彦最高師範
昼だか夜だか分からないうちにロシヤ行きになった。
昨年全日本選手権前夜の支部長会議で、延び延びになっていたロシヤの講習会、審査の話をした。
「予定は4月10日から15日」と言ったら、アトランタ支部長高橋ツトム師範が自分も行きたいと言ってきた。
隣にいたマサ先生自分も行きたいと。その隣にいたサンフラシスコの斉藤先生も。
その隣の隣にいた大幹部の直井先生も「自分も行きたいです」と例の細い眼をショボショボさせながら言ってきた。
「キミ、観光旅行に行くんじゃないんだよ、君達全部連れて行ったらなんか修学旅行みたいじゃないか・・・」と思わず出た。
直井先生そこで毅然と「オス、ロシヤの空手この身体で体験し、最高師範のお手伝いをしたいと思います」何と優等生の様な発言した。
驚いて全員「ウソ~」という目線で直井を見る。
直井その目線を気合いを入れてはね返した。凄く格好よかった。
と言う訳で私とアトランタの高橋ツトム師範、サンフラシスコの斉藤先生、日本からマサ、直井先生が参加することになった。
総勢5人である。
4月10日ロシヤの講習会、審査に出発。
昨日アトランタの支部長ツトム君から、幻のオニギリの話が届いた。
門下生、読者の人には、またオニギリの話しかと思われるかもしれないが、長い空の旅機内食よりオニギリは結構重要な問題なのである。
今回の旅はアトランタから彼と一緒である。
ツトム君が電話の向こうで「やっぱり、塩のきいた鮭がないので具は何にしますか?」
「昆布かオカカがいいな~」
「オス、2個、それとも3個にしますか?」聞くな、年寄りをからかう事はいけません。
「オス、3個にします」あたりまえだ。
・・・とう訳で無事アトランタでツトム君と合流した。
しかし隣同士の席が別々の席に変わっていた。我々の便は満席である。
ツトム君とオニギリは離れてしまったのである。パリ―まで約8時間チョット。
きっと飛びたってしばらくしたら気配りのきく彼は「最高師範オニギリお持ちしました」と言ってくるに違いない。
そう思って気にせずに待っていた。結論を先に言うと、期待は裏切られた。
遠い昔、故大山総裁と空の旅をした事がある。郷田師範も一緒であった。
離陸してすぐ落着いた時私はすぐにファーストクラスの総裁のところに行った。
「なにか必要なものありますか?」聞きに行った。
私の後すぐ郷田師範も総裁のところに行った。
それが弟子の心構えだと思った。
しかし現在は違っていた。ツトム君、姿も見えず、声も聞こえなかった。
時代が変わった事をオニギリを想像しながら痛感した。
もしかして直井とツトムは兄弟かもしれない。変な想像をしてしまった。
ただ良かった事は、乗ったAIR FRANCEの食事が旨かった。
無事パリ― ドゴール空港に着いた。
乗り換えのゲートには既に直井君とマサ君が待っていた。
二人は日本から約13時間のフライトであった。
それから次のフライトまで7時間待ちである。大変である。
マサは眼を開けて寝ている様だった。凄い特技を持っている。
直井はガイドブックを読んでいた。空手教典ではない、ガイドブックである。
“ロシヤの空手を生で体験したい“そんな雰囲気ではなかった。
バケーションに行くような感じである。
又二人の衣装がなんとなく場違に見えた。
マサは中学生が着るようなスポーツコート。
思わず「ちょっと小さいじゃない」と言うと、
「オス12~3年前のやつです」両腕を前で組むと背中がビリと破けそうである。
直井はどこかのバンドマンが着る様なジャケット、その胸にワールド大山空手のパッチをピンで付けている。しかたが無いのでパッチを付けている感じである 。
シャルル・ド・ゴール国際空港(Paris,France) 直井先生
「オイ、そのジャケットとパッチ合わないんじゃない?」
直井、例の優しい細い眼をショボショボさせながら「ウッ~オス」で終わりである。
先が思いやられる、だんだんと頭が痛くなってきた。
全員そろってパリ―からセント・ピーターズバーグに出発。約3時間のフライトである。今回のロシヤ講習会、結構ハードなスケジュールである。
私は講習会の指導内容をチェックする。
4人のサムライ離陸してすぐ口を開け、鼾をかき始めた。マイッタ。
それでもキャプテンの後20分で到着とのアナウンス入ると眼を覚ました。
窓側の席の直井が「オッ、真っ白ですね、雪です氷です・・・ウハウハ」なにが面白いのかはしゃぎ出す。つられて後の4人もワイワイ騒ぎ出す。
頭が痛くなった。頭痛薬。
機内からの風景 いちめん銀世界 セント・ピーターズバーグ(日本ではサンクトペテルブルク・旧レニングラード)
4月11日無事到着。支部長のキョウロス師範と門下生に迎えてもらう。
ホテルのロビーで小さい子供のデモストレーションがあった。感激である。
長い旅、シャワーをとって短い休息。その後私の部屋でミーティングする。
ロシヤ講習会のテーマも日本で指導した“構え”である。
みんなに構えについて意見を言わせる。全員ビクッとする。
マサと直井は既に私の講習会を受けている。
先ず斉藤に構えにつて話せと言うと。
斉藤胸を張って「エッ構え,カマエ、は大切であります。以上であります」
「ナンダ?それで終わりかアッ。直井説明しろ」
「オス、自分も斉藤先生と同じ意見です」
頭が痛くなった。頭痛薬。
4人のサムライ顔見合せながらもそもそする。
一番先輩格のツトム君「最高師範ソロソロ食事の時間ですが?」
タイミング良く支部長と通訳の黒帯が迎えに来る。
ホテルのレストランで食事である。
隣のテーブルにカップルが美味しそうにビールを飲んでいた
直井が熱い視線を向けている。いや直井だけでなく全員である。
ウエイトレスが飲み物を聞いてくる。
私が「全員水」と言うと。一瞬みんなの身体が硬直した。
その後「アッ、ウッ、エッ、オッ」変な悲鳴が聞こえた。
厳しくやる。
ところが支部長のキョウロス師範が「ロシヤのビールは旨いです」
と言うと、全員泣きそうな顔で私を覗き込んできた。
歳なのか気が優しくなった。
「ビールにするか?」と言うといっぺんに皆の顔が夜叉から天使になった。
食事はロシヤ料理を満喫した。
ロシア料理レストラン 写真左:最高師範・斉藤先生・直井先生 写真右:気合の入ったマサ先生
夕食の後また私の部屋でミーティングである。
この4人のサムライが何時かは私の代わりに海外へ出てワールド大山空手を紹介して指導する訳である。
このミーティングはその為に大切な時間なのである。
講習会の指導方法から、普段の空手の稽古について話す。
4人のサムライ真剣に聞いていた。
ただ、話しの途中から直井の目線が冷蔵庫やテーブルの上に置かれてある、果物やクッキー、パン、ハムやチーズ、ジュース、ビール方にいっていた。
皆部屋に帰る時、直井がモジモジしながら優しい眼をショボショボさせ、恨めしそうにじっ~とパンを見詰ている。
「最高師範、このパン一つ貰って良いですか?」一瞬危惧を感じた。
直井の言葉を待っていたように後の3人も「自分達も貰って良いですか?」
・・・君達私の話し真面目に聞いていたのか?
また頭が痛くなった。頭痛薬。
カザン聖堂前で、4人のサムライ
4月12日
エルミタージュ美術館前宮殿広場 大山泰彦最高師範
エルミタージュ美術館 大使の階段
朝食はホテルのバッフェーで済ます。豪華であり何でも旨かった。
10時ごろ支部長のキョウロス師範が迎えに来る。
ロマノフ王朝時代の冬の宮殿、エルミタージュ国立美術館へ行く。
日本でもアメリカでも美術館はいろいろ見たが、この美術館は桁違いに大きい。
一週間通っても全部見られるかどうか疑問である。
まず宮殿入った途端その豪華さに圧倒されてしまった。
4人のサムライも眼を丸くしていた。
直井さえも「ウオー、アッ、エッ、スゲ~」と感心していた。
古代から中世、世界中の美術品、彫刻その他集めている。
一部屋ごとに大理石の色が違う柱や床になっていた。驚嘆した。
キョウロス師範と大山泰彦最高師範
夜7時から9時までロシヤ大山空手のアドバンス生徒を指導する。
構え、基本、型、棒とトンファーを指導する。
生徒の質が高く私の説明をすぐ理解してくれた。
どの生徒も空手に対してハングリーな精神を持っていた。
時間を忘れて指導した。いい汗を流した。
4月13日
11時から子供の講習会である。
4人のサムライを大いに使って指導すれば簡単に終わると思った。
ところが会場に一番先に入った直井が「アイヤ~」と悲鳴を上げた。
続いてマサも斉藤、ツトム君も「ウッオ~」唸った。
最後に入った私は会場いっぱいに埋め尽くした子供達を見て、気合が入った。
一見すると5~7歳それも殆ど白帯である。約100人である。
後ろの観客席は満席である。
両親、お爺ちゃん、オバーちゃん家族全員がカメラを構えている。
指導の時間は1時間である。4人のサムライが私の顔を凝視している。
日本語も英語も通じるはずがない。
通訳の人にイチイチ技や動きを説明していたら子供達の気が飛んで行ってしまう。
アクションで子供達の気を掴まないとメチャメチャになってしまう。
先ず“構え”をいかに大切かを見せる。
次に悪い構えはどんな結果になるかデモンストレーションをする。
オリジナルな四方型に持っていく。
途中「ハラショー{素晴らしい}」とロシヤ語で叫ぶ。
四人のサムライを角に立たせ気合いを入れさせる。
100人子供達、無垢な顔のモンスターが私の号令で動く。
1時間の講習会はアッと言う間に終わった。
終わった後は写真の撮影会になった。これが延々と続いく。
最後にキョウロス師範が怒鳴ってやっと終った。
30分コーヒーブレイク。他流派も入れて組手の講習会が始まる。
構えを見るとその人の組手の実力が読める。全てではない。
右利きか左利きか、立ち幅が広いか狭いか、腰を落としているか否か・・・等でどんな組手を得意とするのかある程度読める。
組手の講習会に出て来るだけあってそれなりの実力を持っている人ばかりであった。
打てば響くように指導がしやすかった。楽しかった。
ただ最初に断った。
私が何か特別な技や動きを教える等と思わないでもらいたいと。
組手が強くなりたかったら一つ一つの基本技を徹底的に身体に溶け込ませるのだと。
練りぬいている内に基本の技がその人の長所、短所を教えてくれる。
徹して稽古していると技が語りかけて来る。
この技にはこの動き、この拍子、この技とその技が合う、この技にもっとパワー、スピードを付けないといけない・・・素直に心を開いて対話をする。
頭で稽古するのではなく体全体で稽古する。
講習会が終わった後ある極真会の黒帯が回し蹴りの蹴り足の膝の抱えを質問してきた。
私の意見では蹴り足の膝は脇のところに持ってくるのが基本である。
最近の回し蹴りは、蹴り足の膝が前に出過ぎてる。だから角度が甘くなる。
回し蹴りの外から蹴り込む特徴が生きていない。
正確な技を身に付けてから、そこからアレンジすることが大切である。
変な癖を付けてしまうと応用が利かなくなり組手の内容が狭くなる。
4月14日
9時から審査である。
私の講習会を多くのアドバンスの生徒が既に受けていたので審査はやりやすかった。
少年部の組手が大人の組手と変わらないほど激しかった。
ロシヤの空手は昔の空手を思い出させてくれた。
夜はサヨナラパーティーである。
サヨナラパーティー 写真左:大山泰彦最高師範に記念品授与。 写真中央:右下キョウロス師範。
写真右:斎藤先生・マサ先生・直井先生がダンスに飛び入り参加
その前にUKRAINEから汽車で36時間乗って私に会いに来た二人の空手家に合う。
彼等もこの3日間私の指導を受けた。彼等の熱意、情熱は素晴らしかった。
写真左:凍りついた川の前で、大山泰彦最高師範。
セントピータ―ズバーグの街は大きく道路も広かった。
運河はまだ凍っていた。道路の端には雪が残っていた。春はまだ遠い様だ。
ツトム君やマサ、斉藤君もロシヤの女性が素晴らし、綺麗だぁ、と毎日言っていた。
直井君は心の中ではそう思っていたようだがあまり口は出さなかった。
ロシヤの旅は私を含めて4人のサムライ達もエンジョイした。
ロシヤはイメージと違って明るく素晴らしい国だった。
帰りの便はツトム君と席は一緒であった。
おにぎりの話はもう出なかった。
もうすぐ支部長合宿。
また再会が楽しみである。
オス
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敬愛する最高師範殿、ロシア遠征疲れ様でした、いつもブログを拝見いたしまして本当に心和やかになります。またいつも心まちしてます、
from 東の忠(2013/05/22)これからも心なごやむ楽しいエッセイ宜しくお願いいたします。
東の忠さん
コメントありがとうございます。
最高師範も東の忠さんのようなコメントをもらうと書く気が沸いてくるとおっしゃっています。
これからも応援よろしくお願いいたします。
アトランタ支部長 高橋
from Shihan T(2013/05/28)