DEEP SOUTHに雪が降る
1月28日火曜日、今朝の天気予報では「チラチラと粉雪が舞う程度で積もる気配はありません」と言っていた。
昨日からアメリカ全土を大寒波が覆っていた。
今朝の散歩も気合が必要であった。何とか根性を出し完全装備で家を出る。
サラサラと粉雪が舞う。
すれ違う人もなく何時もの雑木林は鳥の鳴く声もなく、森閑としている。
表の道を時々車が行きかう音だけが聞える。
10分ぐらい過ぎるとステラとハナの身体が雪で白くなる。
ふっと、もしかしてこの雪積もるのではないか・・・・
早く帰らないと車が動かなくなるのではないかと懸念が起きる。
それでも予定のコースの半分まで来たので、最後まで歩く事にする。
ここアラバマ、バーミンガハムに雪が降るのは10年に一度ぐらいかもしれない。
ちょっとの雪で街全体の動きが止まってしまう。
起伏にとんだ道が多いからである。
深南部{デ―プサウス}の人は雪の中を運転する事に慣れていない。
パラパラと雪が降っただけでアチコチで事故が多発する。
雪が降る度にアラバマ自体の政治、経済、教育の活動が止まってしまうようだ。
何時も雪を見る度に思い出す事がある。
遠い昔、まだ私が極真時代の出来事である。本当にあった事である。
総主、茂兄がコネチカット州のフェアーフィールドと言うところに道場を出した。
3月の中旬だったと思う。兄の大会か何かでシカゴから三浦、私も応援に駆け付けた。
確かではないが、NYには午後着いたと思った。
空港から直接道場に出向いて稽古をする事になった。
兄の道場で私、三浦、その時の内弟子であった藤原、日沖、もしかして兄の息子テッドもいたかもしれない。
皆で演武、型の統一、いろいろと和気あいあいと楽しい汗を流していた。
ふっと外を見ると雪が降り始めた。
なぜか自然と気持が昂った。
前にも言ったように、アラバマでは雪はなかなか見られないからである。
兄の道場は商店街の一角にあった。
我々が着いた時は、結構広いパーキング場には車が10台ぐらい止まっていた。
私が兄に「雪が降り始めたよ、ソロソロ稽古終わりにしようか」と言う。
兄も外を見てバカにした様な顔つきで、「お前ねェ、こんな雪は関係ないよ。アラバマと此処は違うんだよ」
私の懸念は問題にしてもらえなかった。
シカゴの三浦も微笑を向けていたようだった。
二人の自信のある顔を見てそんなものかと思ったが、なんとなく不安であった。
また皆で稽古を続けた。それから少しまた時間が過ぎた。
不安だったからも知れないが、自然と気持が窓の外に行ってしまう。
また窓から外を見る。降る雪がもっと降り出したように感じた。
パーキング場の車もいつの間にか2~3台になっていた。
その止まっている車のタイヤの下が5~6センチ雪で隠れていた。
表通りに走る車もなんとなく少なくなっている様に感じる。
私がまた兄に、「ちょっと大丈夫かよ?結構積もって来たよ」こんな感じで言う。
兄も外を見て、「心配するなって、こんな雪は毎週降ってるよ、大丈夫だって」凄い自信であった。
そうかと思ったが、でも心の中では不安が大きく膨らんだ。
また稽古を始める。時間が経つ。気が乗らない。
外はすっかり暗くなっていた。
パーキング場のライトに照らされて雪がドンドン舞っている。
止まってる車は2台だけである。そのうちの1台が兄の車である。
何とタイヤが半分以上雪で隠れている。
前の大通りに何か戦車見たのが走っている。他の車は走っていない。
「オイ、ちょっとあの戦車みたいな車、なに?」と兄に聞く。
「オゥ、オゥ、あれか・・・うーん除雪車だよ・・・」そう答えて兄が外を見回す。
その顔色がチョット曇った。
いつの間にかパーキング場は兄の車だけになっていた。
私が兄と三浦に「まだ大丈夫だろ?」と二人の顔色を窺う。
兄と三浦が顔を見合わせ「うーん」と唸る。
なぜか内弟子の藤原と日沖は沈黙である。
私が「冗談じゃないよ、エッ腹も減っているし、汗をかいたんだからビールの時間だろ」
兄が「うーん」と唸りながら出た言葉は何と「これはヤバイ」であった。
以下は私と兄との忘れられない会話である。
雪を見ると其の時の会話が甦ってくるのである。
「なに、お前は南部だから知らない、こんな雪心配ない・・・どうしたの、エッ!」
「うーん、そういわれても、もう遅い」
「フザケルナヨ、どうしてくれるの俺は内弟子じゃないよ、お客さんだよ、エッ」
「ヨシ、今なら大丈夫・・・」
「なにが大丈夫なの?」
「走って帰る」
「エッ、走って帰る、どこまで、エッ」
「俺の家まで、走って帰れば1時間チョットで着ける」
「この吹雪いてる中を1時間も走って帰れて言うのかよ、エッ!」
「それとも道場に泊まるか?」
「道場のどこにベットあるんだよ、マットに寝かせるのか!飯の用意、御馳走あるの?ビールは?・・爆弾落とすよ、頭にくなぁー、本当に!エッ」
「たまあには、断食もいいかもしれないな」
「なに!断食!殺すよ!」
口から泡を飛ばして私は怒鳴ったようです。
結局我々は吹雪いてる中を走って兄の家まで帰りました。
きっと今だったら救急車を呼んでいるかもしれません。
道着の上にコートを着てバックを抱えながら走ったのである。
三峰の冬の合宿では長靴だったが、あの時はドレスシューズ革靴であった。
容赦なく降りしきる雪に、頭、顔、身体じゅうがビショビショになりました。
勿論走りながらも、兄を怒鳴り散らす事は忘れませんでした。
それでも若かったのか、元気だったのか知りませんが、兄の家に辿り着きました。
「珍しいな、こんな事初めてだよ、オイ、ビール飲むか?」
「当たり前だ、俺が一番先にシャワーを取る。旨いつまみ用意しておけよ」
「オケイ、任せろ…サー機嫌を直して」
・・・雪を見ると何時もこの思い出が甦ってくる。
それだけこの思い出は強烈であった。
ちなみに道場を出る時兄の車はドアの半分まで雪がつもっていた。
先生マサがメールで「東京も雪が降りそうです」と言ってきた。
みんな気を付けて。
先生直井滑って転んで頭を打たないように。構え忘れるな!
もうすぐ3月春季講習会再会楽しみです。
健康第一 オス
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今年は、南岸低気圧により太平洋側で信じられない大雪です。お見舞い申し上げます。押忍
from Sensei F(2014/02/17)