道場物語、今回はちょっと趣向を変えて、私の経験談を話してみることにする。
私がアラバマで指導始めた昔は、道場生は殆どが若い人(青年、中年)たちであった。
それも殆どが男であった。子供は非常に稀であった。
若い女性の方が子供達より多かった。
僅かだが家族全員で稽古をしている人達もいた。
家族の中には当然子供とが混じる。
子供も5~6歳の子から10歳から12歳ぐらいいろいろだった。
あの頃は指導の際、子供だからといって特別扱いはしなかったように記憶している。週末の土曜日のクラスは昼前の稽古だけであった。
午前中と言うことで、若い人も出席することはあるが少なく、比較的に家族連れ、主婦、中年のオジサン、子供たちが多かった。
子供の数が知らぬうちに増えてきた。
ある日、アドバイザーが子供だけのクラスをつくったら良いのではないかと進言してきた。いろいろ考えた末に週二回午後に子供だけのクラスを新設した。
アラバマの夏は気合を入れないと暑さに負けてしまう。
この書き出し、今までなんかいも使ってきたが、今回もやはりこう書き出すよりほかにない様である。それほど暑いのである。
ワールド大山空手の総本部は自慢ではないがエアーコンディションが無い。
この事も何回も書いている。2階のロッカールームにはついている。
冷房設備が無いことは以前にも何回も書いているのでみんな知っている事と思う。
最初に行ったように自慢している訳では決してない。
真夏のエッセイは同じような書き出しなる。
どこかの奇特な富豪が「師範お金が余ってしょうがないのでエアーコンディション買わせて下さい・・・」など言ってくることを期待している訳でもない。ホント。
7月に入って俄然気温が上がった。毎日猛暑が続く。
夏に咲く百日紅の花も激しい陽の光に首をうな垂れている。
しかし私は頑張っている。気合を入れてディープサウスの灼熱の太陽をはね返している。そこでサマーキャンプ稽古日誌である。
7月14日火曜日
今日の稽古は基本その三の型、四方の型から、その型の中の技を使っての組手であった。三人で組んでやる稽古は、息をつかせない激しい動きになる。
当然汗が溢れるように出る。道場が汗でプールになるのではと心配になるほどである。
最初にアラバマの夏を経験した時、道場の裏にプールがあって、プールには水ではなくビールだったらな~、飛び込んで腹いっぱい飲めるんだがなぁ~…などと馬鹿みたいな想像をした事がある。酔っぱらってエッセイを書いてる訳ではない。念のため。
稽古が終わった時、ちょうど日本からマサ先生、SFから斉藤先生が無事に到着した。
直に4~5人の黒帯連中と近くのピザ屋に行く。ビールの時間である。
一日で最もエキサイテング?!な瞬間である。いつ見ても黄金色のビールは飽きない。
馴染のウエイターが大きなバケツぐらいのビッチャー{picher}になみなみと注いだビールをソロソロともってくる。
全員で息を殺しながら、こぼすなよ~、こぼすな~と祈っている。
無事テーブルに冷えたビールが置かれる。自然と顔がほころびる。
真っ白に霜のかかったグラスに慎重に次ぐ。ごくりと思わず生唾が出る。
オスの掛け声も気合が入る。「ウクン、ウクン」と咽の音を立てながら飲む。
最初の味はなぜか甘い感じがする。ビールが身体の中に散ってしまう。
すぐにビールの味を確かめるように、またコップを手にする。
「ウグン、ウグン」とまた喉の音をたてながら飲む。
こんどはビールがすぅーっと胃の淵まで届く、そこでバワーンと広がる。
チョットにがみのホップの味がする。あぁ~俺は生きている。値千金である。
激しい稽古、汗をバッチリ流した後だからビールが最高なのである。
5月の末ごろから6月の中旬までここバーミングハムの街には泰山木{マグノイヤ}の花がアッチコチで咲く。
朝の散歩の中、泰山木の白い大きな花が、風に揺られて甘い香りを、それとなく、はこんでくる。自然の香りはシャネル5などの香水よりも素晴らしい。
もっとも、シャネル5の香りなど全く私は知らないし、縁が無い。私見である。シャネル5は関係ない。カラテの話、ワンダフル空手第22話である。
何とか全日本選手権が終わった。
多くの人から「師範、感激しました」とか「良かったです・・・」等と慰めてもらっているのか、それとも褒めてもらっているのかわからない言葉を貰った。
そんな言葉をもらう度になんとなくくすぐられているような感じを禁じえなかった。今回は百人組手である。
その記念すべき日は9月の始めであったように思う。
しかし、仔細は霧の中である。
何とか思い出そうとしてこの2~3週間苦労した。
記憶や思い出の中にもいろいろあって、何時までも鮮明に思い出せることや、時間とともに内容が曖昧になっていく記憶がある。
記憶の輪郭が曖昧になるのは何故かと考えたが、答えは出なかった。
ただ言えることはその記憶に自分の気合いが向かなかったという事と、情熱と言うか、パッションを持てなかったことが関係しているのか、と思った。
何か回りくどい様な話になったが、ようするに百人組手に挑戦したが、そこには溢れる様な気合、情熱が無かったことが原因で思い出すことに苦労している。
しかし私の自叙伝、ワンダフル空手を書き続けるのにはなんとか思い出して書き留めなければいけない事である。
悶々としている日が続く。
そこで、ときどき私の秘書役なってくれるアトランタのツトム師範に電話を入れる。
「オイ、俺の百人組手の事知ってるか?」
「オス、よく知ってます」以外にも、自信のある声が返ってくる。
「昔の雑誌、極真会の現代カラテマガジン月刊誌に載っていたのだが、その雑誌が見付らないんだぁよ、お前探せるか?」
「オス、簡単に探せます」
「エッ、簡単に探せるのか、どうやって?」
「オス、大山泰彦百人組手とヤフーに打てば出てきます」
「なに~、なんで俺の事がそんなに簡単に出てくるんだよ、誰がそんな事許したんだよ」
「は~、最高師範、今は21世紀で御座います」
と言う訳で、道場の屋根裏やガレージの中、昔の箱をほじくり返して現代カラテマガジンを探していたのが、パソコンでツトム君の指示に従って打つと、ななんと、なんと本当に出て来たのである。
何日も苦労しながら探しまくっていた自分の無知さにあきれる。
俺は時代からの残されてしまったのだろうか?真剣に考えた。
便利になったと思うが、なんとなくプライバシーがなくなるんじゃないのかな~・・・とも思った。
・・・まあいいか、IT革命に反抗しても私に勝てるわけがない。
しかし凄い世の中になったと本当に感じた。
と言うわけで、私の百人組手である。
6月9日早朝3時10分に起床。
早朝と言うより真夜中と言った方が当たっているようだ。
昨晩家人に「静かに忍者のように出発をしなさい。私を起さない様に、分かりましたね」もちろん返事は「オス」である。
小型のスーツケースも、着替えも全部準備は出来ている。
もちろん忍びの術はトウの昔にマスターしている。
先生カールが時間通リ迎えにくる。
二人して無言の内に星空を仰いで「うーん」と呟き、その後自然と笑みが漏れた。
空港までの道程、車一台とも擦れ違わなかった。新記録である。
アトランタまでは予定通りであった。とこらがアトランタからLAまでの便が遅れた。LAでの乗り継ぎ時間は1時間しかない。既に40分遅れていた。アトランタのツトム師範に電話を入れる。「オイ、起きろ!朝だよ、分かるか?便が遅れているんだぁ、日本の直井先生に電話して、もしかしたLAでの便に乗り遅れてしまうかも・・・」 続きを読む
オス、小島康隆です。今回は、マジで心境の変化で稽古をし出したかの話です。
僕の事は、第一話、第三話でお馴染になったので皆覚えてくれているのではないかと思います。屈辱の敗北から僕は立ちあがりました。
ちょっと気取って言うと、なにもしないうちに一発で倒されて仕舞った経験が、なんか僕の眠っていた闘争本能を呼び覚ましたように感じました。
テル先生が「皆そんなに変わりはないんだ、いつ目覚めるか、いつ気合を入れるかの差だけなんだよ。」
その話を聞いてから、「ヨシ!やってみよう・・・」と決意した。
道場で稽古中に、テル先生が「チャンピオンになりたかったら、先ず自分をよく見ろ。気合が、弱くなったり無くなったりしたら技が自分の身体から逃げてしまう、気合を入れて、汗を流して一つ一つの技を正確に自分の身体の中に溶け込ませるんだぁ!自分との闘いだ!自分から逃げるな~」
先生がいつものように頭のてっぺんから高い声を出して励ましてくれている。
僕は先生の言葉が、突いて蹴っているとドンドン身体の中に入ってくるのが感じられた。
「正拳があるから蹴りも、受けも生きるんだ。先ず正拳を身に付けろ」
先生の激励に皆が「オ~ス」と返事をしたが、ホントに分かって返事をしたのは僅かな人の様な気がした。
なんとなく皆稽古に慣れ過ぎている様な感じがみえる。
僕はビシビシ音をたてて突いた。気持が良かった。
なんとなく恐いものが無くなったように感じる。不思議な感じがした。
それでも組手の時間になると身体がなんとなく震える。
最初は何で震えるのだろうと思ったが、心の底にやはり、突かれたり、蹴られたら痛いだろうなー、と先に思ってしまう。
だから怖さが出て、身体が自然に震えだしてしまうようだ。
今日も同じように、座ってモジモジしていた。
ところが、テル先生が「ヤスタカ立て」と僕の名前をさしてきた。
しょうがなく立ちあがる、相手は何時もガンガン叫びながら突いて蹴ってくるタケシだった。一番嫌な相手であった。
「ホレー、構えろ」とテル先生が言うのでなんとなく構える。
タケシが僕の顔を見ながらニヤニヤしていた。
テル先生の無常な「ハジメ」の声を聞く。タケシが前に出てくる。
タケシのニキビがつぶれたゴツイ顔に圧倒されて、なんか僕の身体が金縛りにあった様に動けなくなって仕舞った。
タケシの左の正拳がとんでくる。
両腕で胸の前をカバーする。腕にガシーと衝撃を受ける。
僕の身体が後ろに流れる。タケシの一番得意としている下段回し蹴りがくる。両足をすくわれる様にして僕は道場のマットに叩きつけられた。
痛さは感じなかったが、見上げるとタケシがニヤニヤしていた。
なんか解らない、頭の中が真白になったように感じた。
まさかこの年でカラテの稽古、武道の世界に入るとは思ってもいなかった。
息子の太郎を空手の道場に通わせているうちに、なんとなく興味が出てきてしまったのである。
稽古を見ていると私と大体同じ年頃の女性が突いたり蹴ったりしている。
あの位だったら私も充分出来る。そう思うとなぜか私の血も騒ぎ出して仕舞った。
うちの亭主になんて言おうか迷ったが思い切ってある晩胸の内を明かした。
亭主の顔がビックリして「お前どうしたんだぁ、まさか今流行りの殴る蹴るのケージファイトでもする気じゃないだろうな?」
私も思わず「オホホ~ホ」と笑い出してしまった。
「お前、なにか俺に不満でもあるのか?」
「勿論不満は沢山あるは・・・ウフフ冗談よ{本当はあるのだが}・・・」
「エッ、なんだぁ、お前!?・・オレ疲れてんだよ~驚かすなよ・・・」
・・・うちの亭主は仕事が大変なのか年々身体が細くなって行くように見える。
栄養のあるものを考えて食事をさせているのだが、あまり効果がない。
そんな、うちの亭主とは逆に、私はなぜか身体が横に前に出てなんとなく鏡を見るのやヘルスメーターに乗るのが嫌になってきた。
中年と言うか、子供達にオバサンと言われる歳になって、このまま何もしないと身体がドンドン丸くなって仕舞うのではないかと最近マジに考えるようになった。
・・・そんな訳でうちの亭主に相談してみようと思ったのである。
余り亭主を驚かすのも可哀そうなので「・・・ちょっと太り気味だし、エクスサイズしないと身体がなまる様な気がして」
「お前ジムに通っているんじゃないのか?」
「ジムにいくとなんか同じことばかりやっているし、みんな集まるとすぐ井戸端会議になって人の悪口や変な噂話して終わってしまうの」
亭主が「そうか~、いいんじゃないの、太郎はどれぐらい通っているんだ」
「今週で5カ月ちょっと、いま黄色帯6級」
「じゃー試合したら負けちゃうな、太郎に負けない様に頑張れよ」
・・・と言う訳で晴れて亭主の承諾を得て入門した。
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日本での春の講習会が終わりアラバマに帰ってくると一面に新緑が覆っている。
むせるような緑の力である。今はアゼリヤが色とりどりの花を咲かせている。
アゼリヤは甘い蜜があるのかミツバチがブンブンと飛んでいる。
春の朝はことのほか野鳥の囀りが煩く聞こえる。
さてワンダフル空手、だいぶ御無沙汰してしまった。
日本での春の講習会も終わり、こちらでのアメリカンズ・カップも無事終わったのでワンダフルカラテ第21話に気を向ける。
気を向けたまでは良いのだが、なかなか集中できない。
理由は何かと考えた。なんと驚くなかれ、溢れるほどに、どんどん出てきた。
一つ一つを書くとワンダフル空手にならない。
稽古をサボル生徒の顔が浮かぶ。
メールを送っても返信がナカナカこない直井の顔も思い出した。
エクスキューズはいくらでも考えられる。
それが平凡な人間なのかも知れない。何とか気合を入れる。
前回のワンダフル空手は極真黒帯裏話その二であった。
間が空き過ぎたので、話を昔に戻す。
総本部に戻り、まず私がやらなければいけなかった事は指導員の確立であった。
あの頃は、極真総本部にしっかりした指導員体勢が出来ていなかった。
大山館長と私、二人ともまだ若かった様に見える。
僕の名前は石川一馬、中学2年生である。
数学や理科は得意な科目だが体育が苦手である。
僕の隣の席は生憎、自称万能選手の小島のバカが座っている。
昼休み前に数学のテストがあった。
隣の小島が肘で「見せろ見せろ」とカンニングの催促をしてくる。
見せないと後で何されるか分からないのでそっと答案用紙を斜めにして見せる。
小島は普通の科目の時は静かにしているが、体育の時間になると俄然元気になる。
元気なるだけなら良いのだが、威張りだす。すぐ腕力を見せつける。
今日の5時間目体躯の時間バスケットの試合をやらされた。
小島が格好つけて一人で張り切っている。小島のテ―ムと僕らのテ―ムが対戦した。
僕のテ―ムには畠山久美子さんがいた。
畠山さんは細面の顔に大きな黒眼がキラキラしている綺麗な女の子である。
クラス中の男子生徒の憧れの人だぁ。勿論僕も秘かに憧れている。
彼女は綺麗だけでなく勉強が良くできた。クラスの成績順位を僕と争っている。
その畠山さんが同じテ―ムになったので嬉しかった。
畠山さんを意識すると、なんか元気が出てきた。
試合が始まった。小島がドリブルをして僕の前に来た。
僕がガードをする。小島が睨む。首を左右に振りながらフェントをかけてきた。
知らないうちに僕の右手が小島の鼻の頭にぶつかった。
故意でやったのではなく、アクシデントであった。
小島がボールを落として、「イテイテ・・」と言って鼻を押さえる。
鼻血が出てきた。
小島が「この野郎―」と叫んで僕に殴りかかってきた。
アッと思って両腕で顔面をカバーする。小島の右のパンチが僕の左腕にガシとくる。
襲撃で僕は尻もちを着いてしまった。
その時、僕のテ―ムになっていた畠山さんが、「小島君やめなさいよ、アクシデントじゃない、そんなに怒る事ないでしょ」と言って割り込んで来た。
小島が「なんだぁテメ―」と言って、左手で畠山さんの肩を、押そうとした。
畠山さんが小島のその左手を右手で払いながら小島の左側にスーと身体を変えた、
その瞬間畠山さんの左足がビューと音を立てながら小島の顔面に飛んで、
膝から先が鞭のような鋭いスナップが一瞬見えた。
「ガシ」となんか鈍い音がした。
「アッ」と皆が思ったとき、小島が両膝を折るようガックとコートに崩れた。
畠山さんが素早く小島の頭をコートにぶつかる前に受け止めた。
僕はドキとした。みんな唖然として畠山さんを見ていた。
映画のシーンを見ているような錯覚がした。
格好いいなんてもんじゃなく、天使、女神みたいに輝いていた。
凄く綺麗だった。
僕はその時から畠山に恋をしてしまった。